にとってジェームズ・ポッターという人間は特別で。
その理由を、はちゃんと判っていた。
そしてジェームズ本人も知っていた。
戸惑って今にも泣きそうだった顔は、忘れられない。





世界中の愛を、君に





「ただーいま」
重くしっかりとした作りのドアに手をかけてはゆっくりと押した。
魔法がかかっていたはずの家は主を認めるとすんなり包囲をといて、一様に温かな光が灯り始める。
赤い絨毯を踏みしめながらは自然と口元を緩めた。
「・・・・・やっぱ家が一番だな」
杖以外には何も持たない状態で帰郷してきたので、最初に部屋へ向かい、クローゼットを漁って楽な私服を選び出す。
それを手に持ったままバスルームへと直行して、脱いだ制服に洗濯魔法をかける傍ら、浴室にはお湯を張って。
とりあえずはのんびりと風呂に入ってくつろぐことにした。
こんなに穏やかな生活はホグワーツに入って以来していなかったから。
あそこでは何かしら気をつけていなくてはならないし、気になることもいくつかあって。
独りになれるのは本当に久しぶり。
今まで独りでいるのが長かったから、人と触れ合っているのは自分にとって少し気を張るものなのかもしれない。
はそう考えて独り笑った。
「でもセブルスと再会できたのは良かったなぁ。だってあいつ、スッゲーいい奴だし」
それに、と呟いて。
「あいつ以外、所在の知れてる奴なんていないし・・・・・・・・・」
チャプンと、湯の落ちる音がした。
の黒髪が湿り気を帯びて艶やかになり、黄色人種にしては白い肌が水を受けて光る。
猫足のついているバスタブにはミルク色の入浴剤がまかれていて、その上にはプカプカと浮いているアヒルが一匹。
それをピンッとはじくことでガァーと鳴き声をあげさせて。
「どこにいんだよ、リーマス」
旧知の友人に不平を漏らした。



風呂から出た後は地下室のワインセラーからワインを一本取り出して、指を鳴らしてコルクを抜き取る。
デカンターレすることで豊かさを増す赤い液体で喉を潤し、は笑った。
「ホグワーツじゃ酒は飲めないからなー。やっぱ自宅で飲むしかないか」
笑いながら二杯目の杯へと口を付ける。
その間にもチーズやつまみやらを用意して、キッチンでは包丁や鍋が美味しそうな料理を作り上げていて。
屋敷しもべのいないの家では、すべての家事を自身でやるしかないのだ。
いつもは魔法など使わずに手で作るのだが、今日だけはまぁ特別に。
出来上がった料理にナイフを入れながら独り静かに食事を取った。
ダイニングの大きなテーブルに、椅子は二脚。
向かい合う席には誰もいない。
けれどはとても幸せそうだった。



食事を終えて、食器も洗って、特にすることもなくソファーへと身を横たえる。
本を読むでもなく、マグルのテレビを見るでもなく、音楽を聴くでもなく。
ただぼんやりと横になり、視界に広がる天井を見ていた。
大きくはない、けれど丹精に作られたシャンデリア。
目を横に向ければ見えるアンティークの家具。
足元にはふわふわの絨毯。
独りで住むには大きすぎる家。それでもここはたしかにの家だった。
玄関も浴室も、リビングもキッチンもダイニングも。
客など数えるほどしか泊めたことのない客室も、自分が寝起きをしている日当たりのいい自室も。
天井まで届くほどの本棚を埋め尽くす書斎も、研究を行うための地下室も、ガラスに魔法をかけて強化してある温室も。
数え切れないほどの思い出が、この広い家のそれらすべてに詰まっている。
だからどんなに古くなっても取り壊すことが出来ずに修復を繰り返してきた。
何故か心許なくなって手近にあったクッションを抱きしめる。
この腕も、以前は大切な人を抱いていた。
「メリークリスマス、ミスター・ロンリーってか?」
苦笑交じりにまぶたを閉じた。





フィルチさえも知らない隠し廊下で、二人寄り添ってキスをした。
「・・・・・・・・・なんか、変な感じだ」
ジェームズが照れたように笑ったから、も相好を崩した。
「ホント、変な感じ」
クスクスと笑うに目を細める。
「僕はが好きだよ」
顔を上げる途中、赤と金色のネクタイが目に付いた。
「リリーとは違うところで、僕はが好きだ」
真剣な顔つきに反して、柔らかく見つめてくる瞳。
「リリーもきっと僕と同じようにのことが好きだよ」
優しい告白に照れくさくなって、でも素直に嬉しいと思えた。
ゆっくりと、笑顔を浮かべる。
「ありがと、ジェームズ」
「どういたしまして」
そうして、啄ばむようなキスをもう一度。
グリフィンドールの赤と金色が、スリザリンの緑と銀色と混ざり合って。
笑いながらキスをした。

が僕を好きな理由、知ってるよ」
「でもそれでいい。僕がを好きなことに変わりはないから」
「どんな理由でも、に好きになってもらえて嬉しい」
「愛してるよ、

交わされるキスは優しかった。
目覚めたくなかった。この甘く切ない夢から。





2004年7月29日