零れ落ちてゆく時が、君を忘れさせるというのなら。
俺はきっと、縋り付いてでも離さない。
君の温かな腕を、囁いてくれた言葉を。
永遠に、忘れない。忘れ、たくない。
世界中の愛を、君に
クリスマス休暇を目の前にした、ある日のこと。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ずいぶんと機嫌が悪いな」
「まぁね! ハリーは的外れの推理でセブルスのことを見誤っているし、セブルスはセブルスで怪しい動きしまくってこの間の試合ではハーマイオニーに火をつけられるし、ハグリッドは口を滑らせてニコラス・フラメルのことを喋っちゃうし、ドラコはハリーに絡むついでに俺にまで絡んでくるし、ミネルバの出した変身術のレポートは面倒くさいし、雪は降るし、雪合戦に駆り出されるし、俺は年寄りだからそんなに体力がないのにさぁ!? つーかなんでこのコーヒーはミルクも砂糖も入ってないんだよ!? やり直し! もう一度!」
ダンッと零れるくらいの勢いでテーブルへと叩きつけられたマグカップ。
セブルスは沈黙し、けれど大人しくミルクと砂糖をたんまりとのマグカップへと注いだ。
(こういう状態の奴には逆らわない方が賢明だ)
かつて同室で過ごした七年間は、お互いのことを理解するのに有意義な時間だったようである。
クッキーを煎餅のごとくバリバリと噛み砕き、コーヒーを酒のようにグイッと煽る。
どこからどう見ても不機嫌な様子のにセブルスは内心でため息をついた。
「というわけで、俺、クリスマスには帰るから」
「・・・・・・・・・何が『というわけ』なんだ」
「俺が言ったら『というわけ』なわけ。まぁ家にも帰らないとな、換気とかもしなきゃいけないし、泥棒とか入ってたらヤダし」
出かけに完璧な鍵魔法をかけてきておいて良く言うものである。
セブルスがチラッと見たの顔にはでかでかと『俺はしばらく休む。誰も邪魔すんな』という文字が書かれていて。
ため息をつくなと言うほうが無理な話だった。
「よってクリスマスプレゼントは前渡しな。ハイ、これ」
パチンっと指が鳴る音と共にセブルスの手の中にわりと大きめな箱が現れた。
問うまでもなく得意の魔法。杖さえも使わずに軽くやってみせた彼に、セブルスはきっとは自分よりも年上なのだろうと思う。
その片鱗は今までも数多くあったのだ。ただ、自分が気づかなかっただけで。
「新しい実験セット。ちなみに『これさえあれば何でも作れちゃう魔法の鍋!(でも材料は用意してね☆)』だから」
「・・・・・・・・・どこで手に入れた?」
セブルスはいぶかしげに顔を上げた。
それもそのはず、ふざけた名前の癖に性能の高さで有名なこの鍋は、量販されていない数少ない希少なものなのである。
マニアの中ではいくら金を払ってでも手に入れたいという有名な一品。
「まぁ顔が広いから知り合いも多数いるわけで」
は二杯目のコーヒーに砂糖とミルクを相変わらずザクザクと入れて、美味しそうに口を付ける。
「それじゃ不満だった? やっぱ『黙って俺について来い! 魔法薬学Q&A』の方が良かった?」
「・・・・・・・・・・いや、これで十分だ。礼を言う」
「どーいたしまして」
はコーヒーを飲み終わって立ち上がると、うー、と腕を伸ばしてから脱いでいたローブを羽織った。
「じゃあしばらくは会えないけど、よいお正月を」
「あぁ。――――――」
呼びかけに振り向いた友に、小さな箱を差し出した。決して多数の人間には見せないであろう、笑みを浮かべて。
「メリークリスマス」
「・・・・・・サンキュ、セブルス」
この数年もらうことなどなかったプレゼントを、は照れくさそうに受け取った。
手には何も荷物を持たない状態では校長室を訪れた。
「・・・・・・・・・というわけで、俺は一時帰宅してくるから後はよろしく、アルバス」
机に腰掛けて不死鳥のフォークスと戯れながらレモンキャンディーを口に入れる。
椅子に座っていたダンブルドアは同じようにキャンディーを口に入れて笑った。
「おぉ。ゆっくりしてくるがよい」
「今のところさしたる危険はないようだしね。俺の代わりにハリーを見といてよ。それと他の奴らも」
フォークスの喉元をくすぐりながら柔らかい笑みを浮かべる。
もともと動物は嫌いじゃないのだ。それがライオンだろうがアナグマだろうが大鷲だろうが蛇だろうが。
「それとさ、ハリーに渡して欲しいものがあって」
少しだけ困ったような笑みを浮かべながらは指を鳴らした。
軽い音と共に落ちてくるキラキラとした布。
それは銀色にも金色にも七色にも光り輝いて、そっと机の上へと舞い落ちた。
「・・・・・・・・・これは・・・」
驚くように目を見張るダンブルドアに、は頷いて。
「ジェームズの遺品。・・・・・・・・・本当は、もっと早くに渡すべきだったんだろうけど、渡せなかった」
そっと、伏せるように頭を下げて。
「――――――――――ゴメン」
沈黙が、部屋に満ちる。
物音を立てずには床へと降り、影も落とさずに一歩踏み出した。
「それ、アルバスからハリーに渡してあげて。それはポッター家のものだからハリーが受け取るに相応しい」
「・・・・・・・・・」
「俺なら平気だよ。何も思い出がなければ生きていけないわけじゃない。今もすべては、俺の中にある」
そっと左胸に手を当てた。
声は悲しみと、そして自愛に満ち満ちてダンブルドアの耳をくすぐる。
振り向いた彼はとても綺麗に笑った。
「まだ、俺はあいつを愛しているから」
泣きそうな顔で、想いを告げた。
「、よいクリスマスを!」
「ハリーもな。それにロンも。俺が帰ってきたら一緒にチェスやろう」
「待ってるよ! は強いからやりがいもあるし」
「じゃあ二人とも、メリークリスマス」
「「メリークリスマス!」」
何度目になるか判らない聖夜を、独りで迎える。
もう数えることなどとうに止めていた。
2004年6月8日