(セブルスが足に怪我)
は体にまとわりつくローブを軽く直しながら歩いていた。
(まず間違いなくフラッフィーにやられたんだろうな。まぁいい感じに食いつかれてたし)
中々に酷いことを考えながら、素知らぬ顔で廊下を歩く。
夕食も済んだ夜、廊下に出歩く生徒はあまりいない。
それぞれが談話室でゲームをしたり宿題をやったりしているのだろう。
はそんな中、ロウソクの炎が揺らめく回廊を歩いていた。
そして人気がないのを認めて足を止め、ゆっくりと振り返る。
温かい灯りの影を見て、笑みさえも浮かべて。
「出てきたら? 何の用か知らないけどさ」
しばらく沈黙が続いた後、ようやく影がロウソクでのせいではなく揺れて。
黒のローブをまとった相手を見てが笑う。
軽く両手を挙げてみせて、歓迎のポーズ。
「こんばんは、ミスター・マルフォイ」
世界中の愛を、君に
窓から見えるはずの景色は今は闇に隠れてしまって見えない。
その分建物内は明るくて、小さなロウソクだけでもお互いの顔を見ることが出来た。
プラチナブロンドに青白いとも取れる肌の色、そしてその瞳。
(マジでルシウスそっくりだな)
手の届かぬ位置で歩みを止めた相手に思わず苦笑をもらす。
そんな自分に不愉快そうな表情を浮かべた相手にさらに苦笑する。
「ゴメン。別に君を笑ったわけじゃないよ」
(ルシウスの遺伝子を笑ってるから、別にドラコを笑ったわけじゃないし?)
の言葉を受けてドラコはフンッと鼻で笑い、片手でローブを翻した。
そしてキッとを睨む。
「すいぶんスネイプ先生と仲が良いようじゃないか、」
(あー、やっぱさっきドアの向こうにいたのはコイツだったんだ。まぁセブルスも気づいていてそれなりに振舞ってくれたからいいけど)
先ほどの魔法薬学準備室での会話を思い出す。
二人きりなのに「スネイプ先生」と呼んだに、セブルスはしばらく間を開けた後で納得したように『ミスター・』と呼んでくれた。
(あの機転。やっぱ友人はあぁでなくちゃ)
「先生とはホグワーツに入る前から知り合いでね。俺を可愛がってくれた人だから」
はいつものように穏やかに笑って返事を返す。
けれどドラコはやはりバカにしたように笑ってを見た。
「その『可愛がっていた』おまえがグリフィンドールに入って先生はさぞかし残念だろうな?」
「それでも親切にしてくれるから良い方だよね、スネイプ先生は」
「迷惑だとは考えたことがないのか?」
「モチロンあるよ。でも先生は否定してくださったから」
そう言って変わらず穏やかに笑うとドラコはつまらなさそうに笑い、一歩に近づいた。
意外な行動にが目を瞬く。
彼は決して自分に近づくまいと思ったのだ。それはきっと自分のことが気に食わないから。それに自分のことをよく知らないから。
けれど彼は近づいてきた。の、すぐ手前まで。
ルシウスと同じ色の瞳に覗き込まれて、一瞬心臓が音を立てる。
(・・・・・・・・・ハリーもドラコも、父親に似すぎ)
顎にかけられた指に従って、上を向いた。
繊細な作りの顔を前には沈黙して、逆にドラコは薄い唇を開く。
「おまえと似たような奴を、どこかで見たことがある」
「・・・・・・・・・どこかって、どこで?」
の問いかけにドラコは答えなかった。おそらく彼自身答えを持っていないのだろう。
それが判り、目を閉じた。
顎に触れる指に意識を集中させる。
ゆっくりと力を操り、その指から手へ、手から体へ、体から脳へ。
――――――――――記憶へ。
(・・・・・・ルシウスの持っている写真か)
目当ての記憶を見つけ出して、その事実には呆れてため息をつきたかった。
(たしかに前は同じ寮だったから持ってても不思議じゃないよな。でもさ、なんで大切そうに机の引き出しに入ってるんだ?)
マルフォイ家の書斎、豪華な作りの机の引き出し、鍵のついている一段目。そこに件の写真はあった。
(俺の写ってる写真は大体処分したと思ってたのになぁ。よりによってルシウスが・・・?)
は思考を止めてまぶたを開いた。
目の前にあるのは考えていた人物と同じ瞳。
けれどそれはあまりにも近くて――――――・・・・・・。
「っ!」
思わず突き飛ばした。
柔らかな感触を得ていた唇を乱暴に拭う。
数歩後ろに下がったドラコはそれを見て不愉快そうに目を細めた。
「不用意に目を閉じたおまえが悪いのだろう」
「・・・・・・・・・男にキスすんのかよ、マルフォイ家の坊ちゃんは」
(ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ)
震えそうになる手でローブをきつく握り締めた。
懐にある杖を探らないように両手を固く握って、自分の動きを封印する。
「これに懲りたら今後は気をつけることだな」
そう言い捨てて去っていく足音を、はうつむいたままで聞いていた。
小さくなって、聞こえなくなって、辺りには静けさが戻ってきて。
屈辱に涙が浮かんだ。
乱暴に唇を拭って、何度も何度も強く擦って、血が出てもなお拭い続けた。
許せなかった。何よりも誰よりも、こんなに容易く口付けをさせる機会を作ってしまった自分が許せなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・ゴメン」
キスする相手は一人と決めたわけじゃないけれど、したいと思った相手は一人だから。
「・・・・・・・・・ゴメンナサイ・・・・・・っ」
謝りながら何度も唇を拭い続けた。
いまもまだ、感触が残っている。
2004年3月9日