ねぇ、君は、今、どこにいますか。
世界中の愛を、君に
十一月に入ると気温は格段に寒くなり、けれどそんな中でもクイディッチの練習は行われた。
そんなウッドのしごきが厳しくなる中でも、容赦なく宿題は出される。
ハリーは練習でクタクタになった体を引きずって談話室へと現れた。
手の中にあるのは、先ほどの箒とは違って羊皮紙と教科書。
「、ハーマイオニー。魔法薬学のレポートもう終わった?」
「もちろん終わったわよ」
「俺も終わった」
尋ねれば軽やかな返事が返ってくる。
ちなみにハリーがロンに聞かなかったのは、彼が今もなお羊皮紙とにらめっこしているからだ。
「じゃあ教えてもらえると嬉しいんだけど・・・・・・」
遠慮気味に頼むとハーマイオニーは一瞬頷きかけて、けれど疲れたように首を横に振る。
「ごめんなさい、ハリー。今はロンの変身術のレポートを見ているからダメなの」
「・・・変身術も宿題あったっけ?」
「それが聞いて! ロンったらこの間提出したレポートが再提出になったのよ? 先生が『もっと綺麗に書きなさい』って!」
「うるさいなっ! 内容が良ければそれでいいんだよ!」
「まぁ内容が良いですって!? ロン、あなたよくそんなこと言えるわね!」
ギャアギャアと二人が言い合いを始めて、ハリーはその隣で所在無げにたたずんでいる。
そんな肩にポンッと手が置かれて、振り向けば綺麗な黒い瞳と目が合った。
「俺でよければ手伝うけど?」
「いいの?」
「モチロン」
二人して笑顔を浮かべあって、まだ言い合っている二人を置いて図書室へと向かった。
「えっと、たしか『生ける屍の水薬』の製法に関するレポートだっけ?」
図書室の奥、マダム・ピンスの視線から逃れたところでが聞いた。
柔らかな日差しのあたる机に荷物を下ろして、二人は向かい合うように腰掛ける。
「製法の載った本はたくさんあるから、それのどれか選んで写せばいいと思うよ。俺のオススメは『あらびっくり☆簡単に魔法薬学が出来ちゃった!』」
「・・・・・・・・・それ、本?」
ハリーが訝しげに聞くと、は当たり前の顔をして頷いた。
「ふざけた題名だけど製法は判りやすいし、効能についてもちゃんと詳しく載ってる。探してみ?」
「・・・・・・・・・うん、判った」
立ち上がって本棚の影へと消えていくハリーを見ながら、は小さくため息をついた。
そして乱暴に黒髪をかき上げる。
(・・・・・・・・・ヤバイ。なんかボロ出しそう・・・)
苦笑を浮かべながら、柔らかな光から手の平で目元を覆い隠す。
(何も教えていない相手と普通に会話するのなんて慣れてるはずなのに。・・・・・・やっぱダメだなぁ。ハリーってばジェームズに似すぎ)
数冊の本を手にしながら戻ってきたクシャクシャの黒髪に眼鏡をかけた少年を見て、バレないように、息をついた。
(・・・・・・アイツは・・・・・・ジェームズは、俺にとって特別だったから)
カリカリと羽ペンが動く。
ピタッと止まる。
しばらくしてまた羽ペンが動く。
そんな様子をしばらく見守って、はおもむろに席を立った。
数分で戻ってきた彼の手には、古ぼけた分厚い本が一冊。
「ハイこれ」
手渡された本は見た目どおりズッシリとした重みがある。
「ニガヨモギの粉末について詳しく載ってるから。それ見て書けばいーよ」
「・・・・・・・・・何で判ったの?」
「まぁ俺からハリーへの愛の成せる業?」
「ってば」
ふざけた調子でお互いに笑い合って、そしてハリーは渡された本を開いた。
そこには先ほどの本よりも詳しく材料についての考察と比較が述べてあった。
が机の反対側から手招きするのにハリーが近づくと、耳元で秘密めいた言葉が響く。
「スネイプ先生、その本が好きみたいだから。その本から引用しておけばそれなりの点は貰えると思うよ?」
掠めた笑い声が、少しだけくすぐったかった。
「ねぇ。実はずっと聞いてみたかったんだけど」
レポートさえ終わってしまえば、あとは仲の良い友達同士の時間。
「って、チャイニーズ?」
「中国人かって? いや、違う。俺はジャパニーズ。日本人」
「そうなの? ゴメン、間違えて」
「いいって。アジア系は見分けにくいだろうし、こっちの人は」
明るく笑うにハリーも少しだけ笑う。
「両親は魔法使いなの?」
「んー・・・・・・ちょい、違う。日本には日本独特の魔法に似た文化があってさ。『陰陽師』って言うんだけど」
「オンミョージ?」
「そ。杖の代わりに紙で作った札とかを使って術を発動させる、まぁ魔法の親戚みたいなやつ?」
苦笑に近い感じでは笑った。
「俺の両親はそれ。でも俺はホグワーツに誘われたから来たんだ」
「じゃあはその『オンミョージ』じゃないんだ?」
「ちょっとは出来るけど、でも魔法の方が得意。つーかこれから得意になるんだけど」
(まぁ今でも十分すぎるくらいに得意なんだけどさ)
内心で二重奏を奏でながらは笑う。
何も知らないまま笑うハリーに、少しではなく多大の罪悪感を覚えながら。
(でもまぁ、俺はこうして生きてくしかないし?)
先日それで旧友に叱られたのだが、それはどうやらすでに記憶の片隅に追いやられているようである。
けれどそれがの生き方。
いままでこうして生きてきたから、これからもこうして生きていく。
ハリーの話を聞きながら、はいつものように笑っていた。
2004年3月1日