時の流れに疎いからどのくらい前になるか判らないけれど。
とにかく、笑っていた頃。
友人がいて、将来の夢があって、希望を持って話をしていた。
楽しかった日々。
今でも思い出すだけで力が湧いてくる。
友情という名で繋がれた、忘れられない過去。
世界中の愛を、君に
「・・・・・・・・・言いすぎだよ、ロン」
はハーマイオニーの去っていった方向を見ながらたしなめるように言った。
「だって、君だってそう思うだろ? あいつは頭でっかちの性格ブスさ!」
「俺にはミス・グレンジャーは慣れない世界で頑張っている一人の女の子に見えるけど」
「庇いすぎさ、。どうせ明日になればいつもみたいに我先に教室に現れるよ。それより行こう!今日はハロウィーンだから夕食も豪華なんだ!」
ロンが楽しそうに顔を輝かせて歩き出すのをハリーは追って、一回だけ気にするようにを振り返った。
その顔は背けられていて見えなかったけれど、何故かハリーには気になって。
「・・・・・・・・・っ」
「ハリー! 早く行こう!」
「あ、うんっ」
ロンの声に返事を返して再びの方を振り向くと、すでにそこには誰もいなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
つぶやいた声は喧騒に消えた。
もうすぐハロウィーンが始まる。
(子供の言い分だ。まぁ放っておいてもどうにかなるだろ)
そう考えながらは廊下を歩いていた。
ロンの言葉と、泣きながら去ったハーマイオニー、そして戸惑っているハリー。
きっと今頃ロンとハリーはハーマイオニーのことなど忘れて大広間でハロウィーンを満喫していることだろう。
子供特有の傲慢さ。
はそれに小さく笑って足を止めた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
廊下の真ん中に立ち、目を閉じる。
大広間での騒ぎ声がだんだんと遠くなっていく。
の中から一切の音が消え、そして意識の中に大きな映像が浮かんだ。
目を、開く。
「・・・・・・・・・・ふざけんなよ」
両眼に怒りの炎をたぎらせて、ローブを翻して走り出す。
その手にはすでに杖が握られていた。
「俺のいるホグワーツで舐めたマネしてくれるじゃん」
クィレルのもたらした情報によって生徒は監督生に誘導されて寮へと戻る。
しかしそんな中でハリーとロンだけは影に隠れて誰もいなくなるのを待っていた。
スネイプが一人、四階へと上がっていくのを見送ってから廊下を進みだす。
その途端、悪臭が鼻をついて二人は足を止めた。
人間二人分以上の高い背、薄黒い灰色の肌、まるで岩のような巨体に顔だけは小さく、その手には大きな棍棒を持っていた。
ズルズルという音を立ててそれを引きずって。
トロールを前に二人は動きを止めるしか出来なかった。
鍵をかけた部屋から甲高い悲鳴が上がる。
「「ハーマイオニーだ!」」
二人は全力でダッシュして今閉めたばかりの女子トイレのドアをガチャガチャと揺さぶった。
気が動転して上手く鍵を開けられない。
気持ちばかりが焦って手が滑る中、鍵は小さな音を立てて開いた。
――――――それはまるで、操られたかのように。
中ではトロールが洗面台を壊しながらハーマイオニーへと向かっていくところだった。
あまりの突然の出来事にハーマイオニーは恐怖で動けずに、ハリーたちの声さえも届かない。
ロンの方向へと向かっていくトロールを止めたくて、ハリーは思い切り飛び上がって首へとぶら下がった。
その拍子に杖がトロールの鼻へと突き刺さり、鈍いうなり声が上がる。
めちゃくちゃに棍棒が振り回される。
今にもハリーを直撃しそうでロンはいても立ってもいられなくなって杖を構えた。
けれど良い呪文が思い浮かばない。
もっと真面目に勉強をしておくんだったと後悔が頭を過ぎったその時―――。
『今日の授業で何を習った? ちゃんと思い出すんだ、ロン!』
脳内で、声が響く。
ついこの間も聞いた、落ち着いた声。
それは余計な焦りを拭い取って、ロンの思考をクリアーにさせた。
杖が高らかに上げられる。
「ウィンガーディアム・レビオーサ!」
「お疲れ様」
寮に帰ってくるなり言われた台詞に三人は目を丸くした。
談話室はハロウィーンパーティーの続きで盛り上がっていて、その輪から外れるようにして見知った顔が近づいてきた。
笑みを漏らすにロンは「やっぱり!」と目を輝かせてグッと手を握る。
「やっぱりあの声はだったんだね!? 僕もうどうしようかと思ったけど、あの声で助かったんだ! ありがとう、!」
「どういたしまして、ロン」
差し出された手をが握るとロンはそれを喜びのあまり大きくシェイクする。
そんな二人の様子を隣で見つめながら、ハリーが恐る恐る口を開いた。
「まさか・・・・・・全部、見てたの・・・・・・?」
信じられないという声に、は笑った。
目を細めて、ニヤリと。
三人は一気に理解してへと詰め寄る。
「ミスター・! あなた一体どこにいたの!?」
「例の女子トイレのすぐ近くだよ。ハリーとロンが列から離れていくのを見かけたから」
「なんで助けに来てくれなかったんだよ!?」
「鍵を開けたりロンに助言したりはしたよ。誰かがケガでもしたらさすがに出て行こうとは思ったけど」
「・・・・・・先生たちには見つからなかった?」
「おかげさまで。俺まであそこにいたのがバレたらグリフィンドールはさらに減点されてたし。それが嫌だから隠れてたんだ」
は三人を見回して、済まなそうに笑った。
「ゴメン、助けに行けなくて」
謝罪の言葉にハリーは目を瞬いて、ロンは視線を泳がし、ハーマイオニーは困ったように俯いた。
「・・・・・・いいよ。も助けてくれたんだから」
「そう、ハリーの言うとおりだよ! 僕だけじゃあの呪文も思い出せなかったし」
「心配してくれてありがとう。・・・・・・・」
ハーマイオニーがはにかむように笑って言った。
その言葉にも嬉しそうに笑って。
四人はハロウィーンの食事へと駆け出していった。
友情が、今もここに。
2003年7月10日