密やかに、涙を零す。
世界中の愛を、君に
次の日の朝、ハリーとロンは上機嫌でマルフォイは逆に不機嫌だった。
は胸を逸らしてスリザリンのテーブルへ歩いていくマルフォイとすれ違いながら、自分の席へとつく。
「おはよハリー、ロン。何? その大きな包み」
ハリーの手の中にある細長い包みを指差して聞くと、ロンは興奮したようにを引き寄せる。
「ニンバス2000だよ! ハリーが最年少でクイディッチのシーカーになったからそのためさ!」
「マジで!? すごいじゃん」
「本当だよ! ねぇハリー、今度僕にも乗らせてよ」
ロンが頼み込むのをハリーはどこか熱に浮かされたように返事を返している。
はそれを横目で見ながら小さく笑みを漏らした。
(きっとハリーはジェームズにも劣らないシーカーになるだろうな)
箒を手にしているハリーの横顔を見ながらそんなことを考え、はレーズンブレッドに手を伸ばした。
夕食後、ハリーがクイディッチ競技場に行くのを見ながら、は図書室へ行こうと寮を出た。
昔馴染みの絵画やゴーストに手を振って、大きな木造の扉を押し開ける。
「マダム・ピンス。俺がいない間に新しい本は入った?」
かけた声にカウンターに座っていた女性が振り返った。
「もちろんですとも、ミスター・。こちらにリストを作っておきましたからどうぞ参考になさって下さい」
「ありがとう、助かるよ」
一枚の羊皮紙を受け取って背の高い本棚をすり抜けて奥へと入っていく。
そんな中、見知った姿を見とめては足を止めた。
「やぁ、ミス・グレンジャー。今夜は散歩ではなく読書なんだね」
「・・・・・・ミスター・」
ハーマイオニーが顔を上げる。
「昨日だってしたくてしたわけじゃないわ。あの二人を止めたかっただけよ」
「判ってるよ。減点されたくてわざわざ校則を破る人はよほどの物好きだしね」
カタン、とハーマイオニーの前の席に腰を下ろす。
積み上げられた本に少女は目を丸くした。
魔法薬学材料全集、闇の魔術に対する防衛基本集、呪文学応用集。
どれも10センチ近くの厚さの本でチラッと見えた中身も見慣れない単語が並んでいる。
「・・・・・・あなた・・・それを全部読むの?」
不審そうな声音には軽く頷く。
「読むだけだけどね。まだまだ力が足りないから実践はできないけれど、知識だけでも増やしておこうと思って」
(本当は懐かしくて手にとってみただけなんだけど)
の本心に気づかず、ハーマイニーは感心したように頷いた。
「あなた、努力家なのね」
「読書が好きなだけだよ。身につかなきゃ何の意味もない」
「それは確かにそうだけど・・・・・・」
戸惑ったような相手には穏やかに微笑む。
「寮に戻るときは声かけて? レディが一人で歩くには遅いしね。一緒に帰ろう」
安心させるような笑顔と声にハーマイオニーは自然と頷いた。
それを見て本に目を落としたからも、視線を逸らすことは出来なくて。
落ち着いた雰囲気に見とれてしまった。
「もうさぁ、スッゲーびびったわけよ。まさかハリーが覚えてるなんて思ってもいなかったからさぁ」
コーヒーにミルクと砂糖をザクザク入れながらそう言うにスネイプはため息をついた。
「あれかもね、ハリーって天才児なのかも。ほらマグルでいるじゃん? 幼い頃から記憶力がずば抜けてる子って」
「・・・・・・それで、何と答えたのだ」
「『オリバンダーの杖を買うときに一緒になったよ』って答えといた。嘘ではないし」
チョコレートをつまむにスネイプはブラックコーヒーを一口飲んで。
スティックシュガーを三本入れたコーヒーを飲みながら、はソファーにへたり込む。
「・・・・・・・・・一度だけ」
小さな声で。
「一度だけ、会ったことがあるんだよ。・・・・・・11年前の、あの日」
示すことは一つしかない。
スネイプはわずかに表情を歪めた。
「ヴォルデモートがジェームズとリリーを・・・・・・殺した、日。あの日に、俺とハリーは会ってるんだ」
大きく息をつくにコトン、とマグカップをテーブルに置いて。
「・・・・・・・・・初めて聞くぞ、その話は」
「そりゃそうさ、誰にも言ってないからね。知ってるのはアルバスとミネルバくらいじゃないの?」
自分の上司である二人を呼び捨てにするにスネイプはさらに眉間のシワを深めた。
「・・・・・・・・・」
「何?」
「今回は、何度目のホグワーツだ」
鋭い声だった。
嘘偽りを許さないような、真剣な声。
それを強めるようにまっすぐにを睨んで。
「さぁね」
コーヒーで喉を鳴らせて、小さな肩を竦める。
「もう忘れちゃったよ。これでもかなり若作りしてるから」
「・・・・・・・・・」
「ダーメダメ。言えることと言えないこと、言いたくないことがあるんだから無理して言わせるなっつーの」
「・・・・・・・・・・・・」
「言う時機が来るか、俺とセブルスのどっちかが死にそうなときには教えてやるよ」
空になったカップをテーブルに戻して二杯目のコーヒーを注ぐ。
そしてまたミルクと砂糖をザクザクと混ぜ込んだ。
「・・・・・・・・・貴様が糖尿病で死ぬのが先だな」
「セブルスが虚弱体質で死ぬ方が先だよ」
「勝手に人を殺すな」
「俺だってそう簡単には死なないよ」
ニヤッと笑ってみせる。
だって俺は死ねるかどうかさえ判らないんだからね?
2003年6月29日