目の前の光景に、セピアの思い出が色鮮やかに甦る。
世界中の愛を、君に
「ごらんよ! ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」
朗々としたマルフォイの声が中庭に響き渡った。
ハリーがきつく箒を握り締めて一歩前に出る。
「マルフォイ、こっちに渡してもらおう」
「それじゃ、ロングボトムが後で取りにこられるところに置いておくよ。そうだな、木の上なんてどうだい?」
「こっちに渡せったら!」
ハリーが強い口調で言ったが、マルフォイはそれを無視して箒に乗って浮かび上がった。
「ここまで取りにこいよ、ポッター」
嘲笑いの声にハリーが箒を持って。
少女が止めるのも聞かずに地面を蹴った。
ドクン、と心臓の音が響いた。
目の前で空へと上昇していく姿。
何の迷いもなく箒を乗りこなして風を切る。
黒髪がなびいて、まるで鳥のように。
制服のローブが赤と金色のローブに変わって。
「・・・・・・・・・ジェームズ・・・・・・」
――――――忘れえぬ人。
の目に涙が浮かんだ。
その後現れたマクゴナガルによってハリーは連れて行かれてしまい、残ったグリフィンドール生はハリーを心配し、スリザリン生はいい気味だと笑い合っていた。
去り際にちらっと向けられた視線に頷いて、は授業用の箒を片付け始める。
時間ももう終了5分前だったし、この騒ぎでは授業どころではないと判断して。
そして、そっと中庭を後にした。
「やぁ、ミネルバ。いいシーカーが見つかったみたいだね」
誰もいなかったはずの部屋で突如かけられた声にマクゴナガルは周囲を見回して、そして窓枠に優雅に腰掛けているを見つけた。
この時間は変身術の授業はなく、教室には誰もいない。
それを確認するとマクゴナガルは詰めていた息をゆっくりと吐き出した。
「驚かさないで下さい。・・・・・・・・・先生」
「俺が神出鬼没なのはいつものことだよ。それより見た? さっきのハリーの飛び方」
トンッと軽い音を立てて床へと着地したに、マクゴナガルも頷きを返す。
「ジェームズ・ポッターにそっくりでしたわ」
「ホント。傍で見てて鳥肌立っちゃったよ。あれほどの腕前ならミネルバの言うとおりジェームズが小躍りして喜んだだろうね」
「・・・・・・えぇ、全く」
昔を思い出したのか、いつもは厳しいマクゴナガルの瞳にうっすらと涙が浮かんだ。
それをの指がそっと拭う。
驚いて顔を上げた相手に穏やかに微笑んで。
「アルバスに交渉するんだろ? ハリーがゲームに出られるように」
「えぇ、そのつもりです」
「俺も協力してやるよ。セブルスの方は任せといて」
「・・・・・・いいのですか?」
「ゲームは均衡すればするほど面白いからね」
楽しそうに笑うにマクゴナガルも微笑んだ。
「ありがとうございます、先生」
「今はミネルバが先生だろ? 俺は君の愛しい生徒の一人」
「・・・そうでしたね」
「そうでしたよ」
クスクスと笑っては身を翻すと教室を出て行こうとして、思い出したように振り返った。
「ねぇ、ミネルバ。アルバスに伝えといてくれる?」
「はい?」
「ハリーが例の隠し物に気がつきそうだよ。もっと保管を厳重にしとけってね」
言われた内容にハッとして目を見開いたマクゴナガルに小さく笑って。
「またね、マクゴナガル先生」
は教室を後にした。
(決闘か・・・・・・そういえば昔、ルシウスも同じような手でジェームズにケンカをふっかけたことがあったっけ)
ジェームズはハリーよりも直情型でなく計算するタイプだったから、容易にルシウスの考えを見抜いていたけれど、どうやらハリーは違うらしい。
子供の言い争いを耳に挟みながらはポテトを口に運んだ。
魔法を習いたての子供同士の決闘なんてタカが知れてると判断しながら。
止めようとした少女をハリーとロンが無視をして大広間を出て行く。
憮然として表情で、どこか悲しそうな顔をしている少女に、はレモンパイを一切れ差し出しながら笑みを向けた。
「君の言ったことは正しいよ。だけど男はいつまで経っても少年だし、引けないときもあるからね」
「・・・・・・・・・あなた、年寄りみたいなこと言うのね」
「うわ、それはキツイ。俺はこう見えてもレディと同じ年なんだけど。そんなにオジサンに見える?」
(たしかに中身は比べ物にならないくらい年取ってるけどさ)
おどけたようなに少女は目を丸くして、そして小さく笑った。
「そうそう。可愛い子は笑顔が一番だよ」
当然のようにさらっと言ってのけて、そういえばと思い返したように名前を名乗る。
「俺は・。よろしく、レディ」
「私はハーマイオニー・グレンジャー。よろしく、ミスター・」
ホッとしたように笑う少女に、も笑みを返して。
そうして夜は更けていく。
「ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー、ネビル・ロングボトム」
はベッドに腰掛けながら制服のローブを取り出した。
「加えて血みどろ男爵、ミセス・ノリスにアーガス・フィルチ。・・・やっぱりドラコ・マルフォイは来ないのか」
つまらない、と簡単に言い捨てて。
「あーぁ、あんな大きな音立てて鎧を倒しちゃって。・・・・・・そこを曲がればグリフィンドール寮への近道なのに。まだまだ甘いね」
杖を持っているのを確認して再びベッドに座り込む。
特に助ける気はないけれど、怪我でもしたり時限の部屋にでも入ったりしたら困ると思い準備だけはしておいた。
「ビーブスもよくこんな時間までうろついてたなぁ。あーああーああー」
瞼の裏では四人が廊下を走っていく姿が映し出されている。
の眉間にシワが寄った。
『アロホモラ!』というハーマイオニーの呪文が脳内に響き渡って。
すぐさま立ち上がる。
「バカが・・・・・・っ」
入ってはいけない四階の禁じられた廊下。
眠っていた怪物が目を覚ます。
子供たちの引きつった顔がリアルに浮かんで。
「――――――最悪だ」
2002年12月24日