滅多に来客のない地下牢魔法薬学の準備室。
セブルス・スネイプの根城には今、一人の少年がいた。
世界中の愛を、君に
「何で貴様がこんなところにいるのだ! 貴様は我輩と同じ年だろう!? ならば何だ、その姿は!!」
苛立った様子で指差してくるスネイプを他所に、は優雅に紅茶を飲む。
「そうだね、セブルスと同じ年なら本当は33歳? それとも34歳だっけ? もうお兄さんって年じゃなくなってるよな」
「ならば理由を説明しろ! 何で貴様がそんな子供みたいな格好で再びホグワーツの生徒として学校に来ているのだ!?」
「まぁ落ち着けって、セブルス。紅茶でも飲んでさ」
二杯目の紅茶を自分のカップに注ぎながら、スネイプにも座るように顎で示す。
「――――――長い話になるよ」
の言葉に少し沈黙して、スネイプも黒皮のソファーへと腰を下ろした。
クッキーを、一枚つまむ。
「実はさ、俺ってばちょっと変わってるから時が来ると自然と体が幼くなっちゃうわけよ。で、暇だからホグワーツに入学してみたってわけ」
「・・・・・・・・・」
「(パクパクパクパク・ゴクン)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
はクッキーを2枚つまむ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・説明はそれで終わりか?」
「あぁ、終わり」
「長い話でも何でもないではないかっ!」
「まーな。簡単に話しすぎた?」
「簡単すぎるわっ!」
「セブルスってば相変わらず怒りっぽーい」
笑うにスネイプは眉間のシワを隠そうともせずに盛大なため息をついて見せた。
「何だよ、わざとらしい」
「・・・・・・そうだ、貴様はこういう奴だった・・・。人が必死で努力している隣を大声で笑いながら三段飛ばしで駆け抜けていくような憎らしい奴だったんだ・・・!何度こうしてバカにされたことか・・・っ!」
「俺はセブルスを馬鹿にしたことなんてないけど?」
「貴様は成長結果とともに記憶まで失ったようだな。今すぐ思い出させてやろうか?」
「セブルスの薬は苦いから遠慮しまーす」
そう言ってのん気に紅茶をすする。
スネイプはというとワナワナと震える手を握り締めて、何度か落ち着くように深呼吸をして、さらに落ち着こうと自分のカップに手を伸ばした。
「・・・・・・・・・質問なら、受け付けるよ」
小さな声で言われた言葉に伸ばしていた手を止めて顔を上げる。
その先には変わらずクッキーをつまむの姿がある。
その姿が心にある一番古い記憶と重なり、スネイプは思わず息を呑んだ。
変わっていない、。
変わりすぎてしまった。今。
昔と同じように静かな時間が部屋を支配する。
あの頃は談話室で、図書室で、一緒に本を読んだり話をしたりした。
もう、こんな日は来ないと思っていた。
「・・・・・・・・・一つ聞く・・・・・・・・・おまえは、『・』なのだな?」
スネイプの言葉には三杯目の紅茶に砂糖を入れて。
「セブルスの言う『・』の定義が判らないけど、俺はたしかに20年前にはセブルスと同室だった『・』だよ」
「では何故スリザリンではなくグリフィンドールなのだ? あのときのおまえは我輩と同じスリザリンだったはずだ」
ジッと見つめてくるスネイプには被りを振った。
「それは組分け帽子に聞くんだな。俺は基本的にどこの寮でもあるんだよ。前回はたまたまスリザリンで、今回はたまたまグリフィンドールだっただけ」
「校長はこのことをご存知なのか?」
「当然知ってるよ。他の教師も絵画もゴーストも、20年前の俺を知ってるヤツはほとんどが知っている」
平然と言って紅茶を飲むにスネイプは眉間のシワを深くした。
「いま、『何故我輩には話してくれなかったのか』とか考えてるだろ?」
ニヤリと笑うに眉間のシワがさらに増して。
「俺がこういう体質だって言ったところで簡単には信じてもらえないだろ。だから言わなかっただけ。マクゴナガル女史やダンブルドア校長は俺が再びホグワーツに入学するから必然で知ったんだよ」
「・・・・・・ならば、あいつらにも話さなかったのか?」
「ジェームズたち? 話さなかったよ。本当ならリーマスが自分の傷を見せてくれたときに言うべきだったんだけど、言い逃しちゃって」
「・・・・・・・・・」
「言ってたらジェームズとリリーは死ななかったかもしれない。シリウスも、ピーターも、みんな今でも元気で笑ってたかもしれないな」
カタン、とテーブルにカップを置いて。
まっすぐにスネイプを見つめて。
口を、開く。
「君には俺を裁く権利がある。だけどそれは少し待って欲しい。ハリーが、安心して暮らせるようになるまで」
真剣な瞳。
変わらない表情。
気圧されてしまう自分もあの頃と全く同じで。
「・・・・・・それは、例のあの人がいなくなるまで待てということか?」
「名前があるんだから名前で呼んであげれば? でないとつけた本人が気の毒だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、平たく言えばそういうことになるわけだけどさ」
「勝手な言い分だな」
「俺もそう思うよ」
苦笑するように笑って、その姿はどこから見ても11歳の少年のものなのにスネイプにはそう見えなかった。
自分と同じときを過ごした、大切な友。
ずっと、会いたかった。
「じゃ、俺はそろそろ帰るよ。もう夕飯の時間だしね」
最後の一枚のクッキーを口に入れてが立ち上がった。
揺れるローブ。締められた赤と金色のネクタイ。
小柄な体躯はスネイプの肩ほどにも届かない。
「――――――」
つい、呼び止めた。
振り返る顔は最後に見たときよりも幼くて、初めて見たときと同じくらいで。
それでも、大切な友だから。
「我輩はおまえを裁く気はない。・・・・・・・・・何も出来なかったという点では我輩も一緒なのだからな」
呟かれた言葉には目を丸くする。
「・・・セブルス・・・・・・」
嬉しそうに、笑う。
端正な顔立ちを喜色満面に染めて、本当に嬉しそうに。
「ありがとう、セブルス」
「だが仕返しはさせてもらうぞ?」
続けてニヤリと笑って言われた言葉に今度は目を瞬いた。
そんなの表情を見れたことが楽しいのか、スネイプは久しぶりに満足そうな笑みを浮かべる。
「卒業してからこの15年。何度フクロウ便を送っても一度も返事を返さなかったことを忘れたわけではあるまいな?」
楽しそうに笑うスネイプには思わず引きつった笑みを返す。
「・・・・・・だ、だって俺、いつまた子供に戻るか判らなかったし・・・」
「問答無用。友人を一人失ったと思っていた我輩の悲嘆をどうしてくれる?それ相応の償いはしてもらうぞ」
「・・・・・・・・・セブルス・・・」
「ミスター・」
「うぇっ? は、はい?」
突然教師の顔に戻ったスネイプにどもりながら返事を返すと、相手は穏やかに微笑んだ。
それはもう、日頃のスネイプを知っているものならば卒倒しかねないような優しい顔で。
「今後、時間の空いているときはこの部屋に顔を出しなさい。魔法薬学の知識が以前より劣っていないかどうか確かめさせてもらおう」
それはの頭の中で『暇なら遊びに来い。茶を用意して待っていてやる』と置き換えられる。
スネイプもそう置き換えられているだろうことは昔同室で7年間過ごしたことから判っていた。
だから、あえてそんな言い方をして。
ニッコリと笑う。
「判りました、スネイプ先生。今後ともご指導ヨロシクお願いします」
「我輩は厳しいから注意することだな」
「薬の実験台にはなりませんから」
「それは我輩の台詞だ」
軽い言葉の応酬で笑い合って。
まるで昔に戻ったかのように。
二人は笑った。
大切な友に。
再会を祝して。
2002年12月22日