(禁じられた森と四階の右側の廊下は立ち入り禁止か)
消える前に取っておいた糖蜜パイを食べながら、はダンブルドアの台詞を頭の中で繰り返す。
(たしか森にはアラゴグがいたっけ?四階の右側っつーと何かを隠すにはもってこいの場所だな)
どうでもいいような顔をしながら学校内の地図を頭に描く。
物を食べながら廊下を歩くなんてマクゴナガルに見つかれば減点ものだろう。
けれどは構わずに食べながら他の一年生と一緒にパーシーの後について歩いていた。
「・・・・・・ビーブスだ」
パーシーが一年生にささやいたのを聞いてパイを飲み込んで顔を上げる。
ポンッという音と共に現れたあぐらをかいた小男。意地悪そうな目と大きな口は昔と何も変わっていない。
「おぉぉぉぉぉぉ!かーわいい一年生ちゃん!なんて愉快なんだ!」
そう言って急降下してくるビーブスに一年生はゴーストということも忘れてとっさに身を屈めた。
けれどはというと真っ直ぐに立ったままビーブスを正面から見据えて。
パチッと目があった瞬間にニッコリ笑う。
「・・・・・・!」
顔を引きつらせたビーブスにパーシーの怒鳴り声が響く。
「ビーブス、行ってしまえ。そうしないと男爵に言いつけるぞ。本気だぞ」
廊下によく響いた声にビーブスは一瞬肩を震わせて、ベーッと舌を出して行ってしまった。
(相変わらずイタズラ好きだなぁ)
姿の見えない相手を見送りながらは楽しそうに笑みを漏らした。
グリフィンドール寮はすぐそこに。





世界中の愛を、君に





「やぁ、ダンブルドア校長先生。ご機嫌いかが?」
暖炉も使わずに一瞬で現れた相手にダンブルドアはニッコリと笑う。
「上々じゃよ、。グリフィンドール入寮おめでとう」
「どーも。俺もマジで入れるとは思ってもいなかったよ。苦節何年って感じ?」
「ほっほ。きっとこの時代に何かしらの意味があるのじゃろう。ハリーと関わらないというのはどうやら無理のようじゃな」
「部屋まで一緒じゃね。出来る限り近づきたくはなかったんだけど、そうもいかないか。逆に傍にいた方が守れるってこともあるし」
出されたレモンキャンディーをは一つ口に含んで答える。
ダンブルドアは目を細めてそれを見た。
「・・・・・・無茶はするでないぞ、
「それは相手に言ってくれる?子供のケンカなら放っておくけど、ヴォルデモートやシリウスが出てきた日にゃ俺も暴れさせてもらうからね」
飴の包み紙で器用に鶴を折りながら。
「ま、ハリーを守ることを第一に考えるさ」
出来上がった鶴に杖を一振りして魔法をかけると、鶴は紙の翼でパタパタと飛んでいった。
「ホグワーツにも本当は来たくなかったんだよ。ここには・・・・・・・・・思い出が、詰まりすぎてる」
「・・・・・・・・・」
が天井を見上げると同時に長めの黒髪がサラリと揺れる。
白い頬に影を作って、表情を消して。
少年は、少年ではなかった。
沈黙が部屋を支配する。
「・・・・・・・・・・・・話が過ぎた。やっぱ初日だから疲れてるのかな」
ポンッと座っていた机から綺麗に床へと着地する。
「帰るよ。また今度」
杖を一振りしようとして、は思い出したようにダンブルドアを見つめた。
ニヤッと笑みを浮かべて。
「セブルスさぁ、まだあんなシワのよった顔してるのな。ホント、楽しみだよ」
金色の光が現れて一瞬後にはの姿はここにはなく、ダンブルドアは魔法薬学の教師を思い出して「可哀想にのう・・・」と呟いた。



翌日から開始された授業はにとって考えていたよりも新鮮なものだった。
教えられる内容はすでに空で言えるけれど、一年生の反応はどれもみんな楽しくて、自分にはない可愛らしさに笑みが浮かぶ。
が通れば廊下に並ぶ絵画は一様に手を振ってくるし、動くはずの階段は大人しく道を作る。
扉も自動ドアのようにスッと開くし、ゴーストはビーブスや血みどろ男爵でさえも一礼して通り過ぎる。
(これはこれで目立つけど、ハリーがいい隠れ蓑になってくれてるからいっか)
学校中の生徒たちに注目されて居心地悪そうにしているハリーを見ながら、は勝手なことを考えていた。
(それにしても教師陣はやっぱり緊張してるみたいだなぁ)
先ほどの妖精の魔法の授業では担当であるフリットウィックが『』という名前の前で5分ほど停止してしまい、がつい声をかけてしまったほど。
(「先生、俺の名前はそんなに読みにくいですか?」)
変身術のマクゴナガルはさすがというか「」と綺麗に呼び捨てをしていたが、どこか不自然な感は否めなくて。
どの授業でもは笑いを堪えるのに必死にならなくてはいけなかった。



「・・・・・・・・・クィレルはちょっと注意しとくかな」
夜、みんなが寝静まった後の部屋では一人呟いた。
「アイツと同じ匂いがする」
少しだけ目を細めて昔を思い出す。
けれどすぐに頭を振って思考を元に戻した。
5つ並んでいる天蓋つきのベッドには同学年の生徒たちが安らかな寝息を立てている。
は座っていたベッドからそっと足を下ろした。
ヒンヤリとする床を素足で歩いて、一つのベッドへと辿りつく。
音を立てずにカーテンを開けて、穏やかに眠る少年を見下ろして。
鮮やかな黒髪、今は閉じられている緑色の瞳。そのすべてが懐かしい。
「・・・ジェームズ・・・・・・・・・リリー・・・・・・」
顔が歪んだけれどもしっかりと名を呼んだ。
今は亡き、友の名を。
きつく手を握り締める。



まだ、思い出には出来ない。





2002年12月22日