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長い、永い、時を経て。
戻ってきたよ、このホグワーツに。
もう、「おかえり」と迎えてくれる君はいないけど。
もう、名前を呼んでくれる君たちはいないけど。
それでもやっぱり、ここが戻る場所だと思うから。
だから・・・・・・だから。
「――――――ただいま」
世界中の愛を、君に
「ホグワーツ入学おめでとう」
ミネルバ・マクゴナガルの発した言葉に生徒たちは姿勢を正した。
そんな様子を一番後ろで見ていたアキノは小さく笑う。
説明される寮制度は以前と何ら変わっていなくて、それは嬉しくもあり、同時に悲しくもある。
「学校側の準備ができたら戻ってきますから、静かに待っていてください」
マクゴナガルが部屋を出て行くと、生徒たちは一気に詰めていた息を吐き出した。
そして交わされる会話。
寮は一体どうやって決めるのだろうかとか、自分はどの寮に入りたいとか、憶測と希望が入り混じって。
(今回は一体どこの寮だろうな)
きっとスリザリンか、レイブンクローか。間違ってもグリフィンドールではないだろうと予測する。
けれど急に数人の生徒が悲鳴を上げて、アキノもそちらへと顔を向ける。
そこには壁から現れる真珠色をした透き通った人間たち。
よく見ればその足は宙に浮いていた。
生徒たちは突然現れたゴーストに声も出せずに驚いているようで、アキノは思わず笑みを漏らす。
一年生の反応は、いつの時代も変わらないと思って。
口々に一年生に声をかけるゴーストたちを遮るようにマクゴナガルが重い扉を開いて現れた。
「組分け儀式がまもなく始まります。さぁ、一列になって。ついてきてください」
緊張した様子で列を作って歩いていく一年生をアキノは少し離れた場所で見送る。
そして未だ部屋にいるゴーストに声をかけた。
「・・・・・・久しぶりだね、みんな」
親しみを込めたアキノの声にゴーストたちは振り向く。
そして一様に驚いた表情を白い顔に浮かべる。
「なんとまぁ!ミスター・クドウかい!?まさかまたお会い出来るとは!」
「久しぶりだね。少し人数増えた?」
「えぇ、えぇ!貴方がいらっしゃらない間にざっと20人は増えましたとも!ぜひとも今度紹介を!」
「そうだね、頼むよ」
一年生の足音が遠くなっていくのを聞きながら、アキノは最後に部屋を出ようと振り返った。
「俺は、ピカピカの一年生だから。みんなもそのつもりで」
「「「かしこまりました!」」」
ゴーストたちの返事を聞いて、アキノは部屋を後にした。
小走りで一年生たちの元へ辿りつくと、そこはもう大広間の前で。
大きな音を立てて、扉が開く。
浮かぶロウソク、長いテーブル。
金色のゴブレットに、浮かぶゴースト。
「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」
汽車で出会った少女が空を見上げて話すのを聞きながら、アキノは注意深く周囲を見回した。
変わっていない校舎に、安堵するようにため息をつく。
(・・・・・・・・・よかった)
なだめるように左胸を握り締めた。
ABC順に呼ばれていく名前に、どんどんと所属寮が決まっていく。
そしてそれは「ポッター・ハリー」という名が呼ばれたときに最高潮に達した。
シーッという囁きが波のように広がって、緊張で真っ青な顔で組分け帽子を被るハリーを、アキノは温かい気持ちで見守っていた。
(ジェームズとリリーの息子なんだから、グリフィンドールに決まってるじゃん。たとえヴォルデモートの能力が移行していようがね)
アキノの考えに違わず、しばらくして組分け帽子は「グリフィンドール!」と大声で叫んだ。
フラフラと熱に浮かされるようにグリフィンドールのテーブルにつくハリーを見送って、意識を前に戻す。
そして続いて名前が呼ばれていって。
「クドウ・アキノ!」
マクゴナガルの声が響いた。
「・・・・・・まだ、呼び捨てし慣れない?俺の名前」
長い羊皮紙を持って立っているマクゴナガルに小さく声をかけてから椅子に座る。
目を見開いた彼女を横目で確認して、帽子を被った。
(久しぶりだね、組分け帽子。ちょっと会わない間に古くなったんじゃないの?)
「おぉ、アキノ・クドウ。君はまたこの学校に戻ってきたのか」
(戻りたくて戻ってきたわけじゃないよ。文句はアイツに言ってくれ)
「うぅむ・・・・・・君の組分けは毎度の事ながら難しい。ここはやはりスリザリンか、レイブンクローか・・・」
(どこでもいいよ。俺は、俺にしかなれないから)
「・・・・・・・・・判った。これは一つの賭けになるだろうが、時が来たのかもしれぬ。ならば君の寮は――――――
グリフィンドール!
」
甲高い声が広間に響いた。
「グリ・・・フィン、ドール・・・・・・・・・?」
信じられないように言った言葉が口をつく。
被っていた帽子がそっと取り去られた。
見上げれば穏やかに微笑んでいるマクゴナガルがいて、その目にはうっすらと涙が光っていた。
「・・・・・・良かったですね。ミスター・クドウ」
「・・・・・・・・・ミネルバ・・・」
「本当に良かった・・・・・・」
感激したように言われ、ようやく一つのテーブルが沸きあがっているのに気づいた。
赤と金色のカラー。
シンボルのライオン。
勇気あるものだけが住める寮。
「・・・・・・・・・グリフィンドール・・・・・・」
泣きそうな声で呟いた。
先ほどのハリーに劣らずおぼつかない足取りでグリフィンドールのテーブルにつくと、監督生であるパーシー・ウィーズリーよりも先にアキノの元へ駆け寄ってきた人物がいた。
相手は掴めもしない手で、アキノの両手をギュッと握り締める。
「ようこそミスター・クドウ!ようこそグリフィンドールへ!」
「・・・・・・ニック・・・」
「貴方が来るのを私はずっと待ち続けておりました!」
興奮した様子で話す首無しニックに、アキノは弱弱しく微笑む。
「・・・・・・・・・俺も、まさかグリフィンドールになれるとは思ってなかった」
「これも全て貴方が許されたことの証!あぁ何と感謝すべきことか!」
勧められるままに席につく。
周囲の生徒は二人の親しそうな関係に首を傾げていたけれど、そんなものは今のアキノにとってはどうでもいいことだった。
グリフィンドールに入れたこと。
それが全て。
「・・・・・・・・・グリフィンドール・・・・・・」
左胸を押さえて呟いた言葉はホグワーツの校歌に紛れて消えた。
2002年12月22日