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(先に行って席を取るか、または後に行って席に座らずにいるか)
考えた問題に軽く笑って立ち上がる。
「・・・・・・別にどっちでもいいよな。行くことには変わりないんだし」
アキノがパチンと指を鳴らすと全ての部屋の窓と入り口のドアの鍵が自動で閉まった。
しかもどうやってもアキノ以外は入れないように呪文まで張り巡らせて。
「じゃ、行くとするかね」
魔法をかけて軽くしたトランクを片手に暖炉へと立つ。
部屋全体を見回して忘れ物がないかチェックして。
「・・・・・・行ってきます」
小さく呟いた。
世界中の愛を、君に
子供たちで溢れるホームにアキノは思わずため息をつきたくなった。
「・・・・・・俺、こんな若者と混ざってやっていけるのだろうか」
トランクを引き摺って空いているコンパートメントを探すが、やはり人がいない部屋はなくて。
仕方なしにとりあえず廊下へとトランクを引き上げる。
「ハリー・ポッターにウィーズリー、加えてマルフォイ。迷惑な時代に寄こしたもんだよなぁ」
小さな声で愚痴をもらして、黒髪をかき上げる。
「しかも教師陣は素晴らしいお方が揃ってる。こりゃ一苦労ってか」
高らかに笛が鳴るのを聞きながら壁際に寄せたトランクに座り込んで。
紅い汽車は出発した。
席を探していたらしい生徒たちもいなくなった頃を見計らって、アキノは移動し始めた。
見かけの割りに軽いトランクを引き摺って汽車の最後部まで来ると再びトランクの上に座り込む。
「・・・・・・・・・久しぶりのホグワーツだな」
呟いた声はどこか哀愁に満ちていて。
コンパートメントから聞こえてくる子供たちの声も、ガタゴトと揺れて走る列車も。
流れていく景色も、高鳴っていく胸も。
すべてが変わらない。
いつの時代も同じ。
永遠に、同じ。
「――――――車内販売よ。何かいりませんか?」
一つ残らずすべての部屋にそう呼びかけていた女性が自分の前に来たのを見て、アキノは立ち上がる。
「そうですね。かぼちゃパイと百味ビーンズをいただけますか?」
どうぞ、と渡された品物にポケットから銅貨を出して支払う。
「・・・・・・ねぇ、あなた。席まだ空いてたから座ってきたら?きっと友達もたくさん出来るわよ?」
どこか困ったようにそう勧める女性にアキノは一瞬驚いて、そして穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます、マダム。ですが俺はここでいいですから」
「そう?気が向いたら行ってみてね?」
「ええ、判りました」
心配そうな様子で去っていく女性を見送って、アキノは浮かべていた微笑を取り去った。
「・・・・・・・・・友達だってさ」
自嘲気味に声を上げて笑って。
「そんなの、もういらないっつーの」
左胸に手を当てて口元を歪めて呟いた。
目の前をヒキガエルが闊歩するのを見て、思わず突く。
ゲコ、と鳴いたカエルをさらに突いて。
ゲコゲコと鳴くものだから調子に乗ってピンッと弾く。
するとカエルは悪戯されるのを嫌がったのか、ピョンピョンと飛びながら廊下を走って行ってしまう。
「・・・・・・アレ、いい薬の材料になったのに」
アキノのコメントを聞かなかったのは幸運なのか、カエルの姿は見えなくなってしまった。
そして入れ替わりに現れたのは栗色でウェーブの髪を揺らせた女の子と、丸顔の泣きそうな男の子。
「ねぇ、あなた!ネビルのヒキガエルを見なかった?探してるの」
「ハァイ、レディ。ヒキガエルなら見たよ。ついさっきまでここにいたけど向こうの車両に行ってしまった」
「っホント!?」
パァッと顔を明るくさせた男の子にアキノは微笑んで。
一秒目を閉じて、それから口を開く。
「三つ先の車両、右側四番目のコンパートメントにいるよ。早く行かないとタランチュラに食べられちゃうかもね」
「―――――ありがとうっ!」
バタバタと走っていく男の子を眺めて、未だこの場から去ろうとしない少女に笑みを向ける。
「何か?レディ」
「・・・・・・・・・あなた、どうしてヒキガエルの居場所が判ったの?」
警戒心を浮かべた瞳で聞いてくる少女にアキノはあぁ、と頷いた。
「勘だよ、勘。さっき見てた限りヒキガエルは右側のコンパートメントにしか入らなかったから、スピードからいって今頃はそこだと思ってね」
「・・・・・・・・・そう」
「そうだよ」
(その行った先のコンパートメントにタランチュラがいることは、どうして知ってるのか突っ込まないんだ?)
難しい顔をして考え込んでいる少女におどけたようにウィンクをして。
「俺、そろそろ制服に着替えようと思うんだけど、レディは俺の着替えシーンを御所望で?」
「・・・・・・・・・っ」
パッと顔を紅くして走り去っていく少女に思わず笑みを漏らす。
そしてパチンと指を鳴らすと服装は一瞬でホグワーツ指定の制服へと切り替わった。
再び目を閉じて息を静め、意識を集中させる。
見えてきた映像に口元を歪めて笑って。
「ドラコ・マルフォイがハリーに接触。しっかしよくもこうルシウスに似たもんだよなぁ。奥さんの血はどこ行ったんだ?」
クスクスと笑いながらネズミに追い払われる三人を瞼に描いて。
「ハリーはやっぱりジェームズとリリーの息子だな。よく似てる」
車内に放送がかかって、あと五分でホグワーツへ到着することを告げるとコンパートメントから次々と生徒たちがあふれ出てきた。
そして通路は当然のごとく一杯になってしまって。
耳を切り裂くような騒がしさにため息をつく。
「・・・・・・ジェネレーションギャップで済まされる年齢差じゃないと思うんだけどな・・・・・・」
呟いた声は子供たちの興奮に紛れて誰にも聞こえることはなかった。
汽車を降りると一年生だけが集められて、ハグリッドの跡についていくように指示される。
一瞬向けられた視線にアキノは小さく笑みを返して。
一番後ろから真っ暗な小道を歩いていく。
そして対岸に見えた、壮大な城。
思わず、息が止まる。
こみ上げてくる涙を堪えるのに必死で。
胸が、悲鳴を上げた。
帰ってきたんだ、ここに。
ホグワーツにまた、帰ってきたんだ。
2002年12月21日