ざわざわと人が行き交う中ではまっすぐにグリンゴッツへと歩いていた。
ドンッとぶつかった婦人に小さく頭を下げる。
「すみません」
会釈を返してくれた相手に自分も笑って、ひらめいたローブを手で押さえた。
(体が小さいって本当に不便だよな)
その後も何度も人にぶつかりながらもどうにか目的の場所へと辿りついて。
真っ白な建物に臆せず入り、大きな目で金貨を数えたり宝石を計ったりしている小鬼にも笑顔を向けた。
「666番金庫の・。案内してくれる?」
10歳になるかならないかの子供に鍵を渡されて、小鬼は慎重に調べるが偽物ではないことを確認すると「承知いたしました」と頷いた。
そしてそのままトロッコに。
「・・・・・・これだけは何度乗っても慣れないよなぁ・・・」
は口元を押さえてグッタリと呟いた。
世界中の愛を、君に
ホグワーツの入学許可証が届いた日、は久しぶりに友人の元を訪れた。
「俺の今回の目的?それはもちろん一つだろうね」
「・・・・・・ハリーか」
「そう。出来る限り接触はしないつもりだけど、一体どうなることやら。ヴォルデモートも狙ってるんだろ?」
「うむ。・・・・・・、くれぐれも無茶な行動はするでないぞ?」
「それは心外。アルバス、俺がいつ何時どんな無茶をしでかしたと?」
「自分の胸に聞いてみるのじゃな」
「最近忘れっぽくてね。まぁいいさ、今回も好きにさせてもらうから」
「おぉ、楽しむがいい」
「今やこれくらいしかないからね、俺の娯楽は」
笑みを向けてくる歴代の校長の絵画には笑って手を振った。
歩きながら手元にある紙へと目を走らせる。
「えっと・・・教科書は全部買った、鍋も薬瓶も家にあるし、あとは・・・・・・ローブか」
持っているのは必要なものが書かれているリストのみ。
買ったはずの品物は魔法ですべて自宅へと送ってしまった。
付き添いの親もおらず、黒のローブを身に纏いダイアゴン横丁を歩きぬける。
「―――――――あった、マダムマルキンの洋装店」
カラカランという音を立てるドアを開けて店へと入る。
藤色のローブを着た女性にニッコリと笑って。
「ホグワーツに入学するんですけれど、ここで揃いますか?」
「えぇえぇ、坊ちゃん。どうぞこちらへ」
踏み台のほうへ案内され、音も立てずに飛び乗った。
着ていたローブを脱ぐと頭から長いローブを着せられて、マダムがピンで留めていく。
どことなく興奮しているマダムには首をかしげた。
「何かあったんですか?」
抽象的な質問にマダムは顔を上げて嬉しそうに口を開く。
「いえね、さっきハリー・ポッターが来たんですよ。黒髪でね、小柄で、とても利発そうな男の子でした」
「ハリー・ポッターが?」
「えぇ、そうなんです」
興奮気味に話すマダムに相槌を打ちながら判らない程度に苦笑する。
(アルバス、やっぱりハリーと接触しないっていうのは無理かもしれない)
包んでもらった新しい制服をパチンと指を鳴らすことで自宅へ転送して。
「あとは杖か・・・。調子が良いかどうかだけ見てもらうとするかな」
ローブの内側にある棒を手の平で確かめて、人ごみをすり抜けながら足を進める。
「オリバンダーってあんまり好きじゃないんだよなぁ」
ブツブツと呟きながら店の扉へと手をかけた。
――――――――――ガシャン!
入ると同時に目の前のカウンターにあった花瓶がいとも簡単に砕け散った。
生けてあった花が床へと落ちて。
は思わずヒュゥと口笛を吹く。
視線の先には慌てた様子で杖を店員に返す少年。
クシャクシャの黒髪、丸い眼鏡、かすかに見えた額の傷。
「・・・・・・悪い、アルバス。マジで無理みたいだ」
の小さな呟きを聞き取ったのか、壁際で少年を見守っていた男が振り返った。
目を見開く相手に口元だけでニッコリと微笑んで。
声には出さずに唇だけを動かして言葉を紡ぐ。
『静かに、ハグリッド。今の俺はただのホグワーツ新入生なんだから。ハリーに余計なことを気づかれたくはない』
脳内に直接伝わる声に息を呑んで、そしてマジマジとを見つめる。
は微笑して店内の中央にいるハリーを指差した。
渡された杖を握り締めて、振り下ろすと同時に現れた赤と金色の火花。
弾かれたように視線を戻したハグリッドが「オーッ」と声を上げて拍手する。
けれど、の目はまっすぐに杖に向けられたまま逸らさずに。
(・・・・・・よりによってあの杖かよ)
オリバンダーが気難しい顔で語るハリーの杖の運命。
恐れるように言われる『名前を言ってはいけないあの人』。
(今頃どこで何やってんだろうな?)
少なくとも優雅に紅茶を飲んでることはないだろう、と勝手に決め付ける。
顔色を悪くしたハリーが金貨を払って店を後にしようとする。
ハグリッドが自然ととハリーの間に入ってすれ違い、は向けられた視線に笑みを返した。
二人がドアから出て行ったことを確認すると、未だ眉間にシワを刻んだままのオリバンダーに杖を突き出して。
「調子はどうか見てくれる?オリバンダー」
相手に有無を言わせない笑顔で微笑んだ。
「ごめん、アルバス。マジで無理」
紅茶を片手にレモンキャンディーをつまみながら。
「あ、これミルクティーなのに飴なめたらレモンティーになるじゃん。うわー失敗」
「・・・・・・それで。ハリーに会った感想はどうじゃった?」
「ジェームズに生き写し。でも雰囲気はリリー似かな。きっと将来美人になるよ」
穏やかに微笑んで答える相手にダンブルドアは一つ頷いた。
「君は君自身の好きなようにやればいいのじゃ。わしも出来る限りのフォローはしようと思っておるからの」
「アルバスの首が飛ばない程度に収まるといいけどね」
「ほっほ。わしはそんなにヤワではないぞ」
「じゃあ俺も遠慮なく遊べるな」
飲み終えたカップを校長室のテーブルに戻して。
「じゃ、俺は帰る。次ぎ会うときはヨロシク?ダンブルドア校長センセ」
煙突飛行粉を片手に暖炉へ立つに、ダンブルドアは目を細めて呟いた。
密やかな、少しだけ悲しそうな声音で言葉を紡ぐ。
「・・・・・・・・・が気にすることはない。すべては君の手の届かないところで起こってしまうものなのじゃ」
厳かな声に目を見開いて。
そしてすぐに苦笑する。
「これでハリーまで不幸になったらジェームズとリリーにぶっ殺されるな。ただでさえ罪は重いってのにさ」
パッと手を離すと同時に緑の炎が舞い上がる。
瞬きをしたときにはすでにはいなかった。
残ったのは空になったカップのみ。
ダンブルドアのついたため息が宙へと消えた。
あと一週間でホグワーツ入学式。
2002年12月21日