04.はい、と言えれば





「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ヴェルデが差し出した鞭を、佐知川は礼を言って受け取った。
ソファーによじ登り、出された紅茶に口をつけつつ、ヴェルデは説明する。
「今までの鞭に比べて伸縮性も威力も上げておいたし、それに手元のスイッチで網が出たり三又に分かれたりするから、いろいろ試してみて」
「素敵な機能ね。さすがと言うべきかしら」
「別に・・・・・・パパの頼みだし」
どこか不貞腐れたかのようなヴェルデの表情に、佐知川は思わず笑みを漏らした。
彼のその顔が、つい半年ほど前、日本で生活していたときによく見たものだったからだ。
あの後輩は元気かしら、と佐知川が余所事を考えていたのが判ったのか、ヴェルデは不可解そうな顔をしている。
「ごめんなさい。あなたが知り合いに似ていたものだから」
「・・・・・・知り合い?」
「ええ。日本にいたときの、様の後輩に」
くすくすと笑みを漏らす佐知川に、ヴェルデは軽く驚いた。
の傍に控えている彼女は常に冷静で、表情をあまり変化させない。そんな彼女の柔らかい顔を、ヴェルデは初めて目にしたのだ。
「あの子も様に憧れているくせに、そんなことないって顔をしていて。だけど気になって仕方ないから、文句を言いながらも傍にいたわ」
「別にボクは」
「素直になった方がいいわ」
微笑んだ佐知川の表情は柔らかかった。

「自分があの方の下僕だと認めてしまえば、様は慈しんで下さるから」

ぐっと言葉に詰まったヴェルデに、佐知川はもう一度微笑んでみせた。
所有されるという幸福を、の武器になれるという喜びを、彼女はすでに知っている。





2006年3月2日