03.泣いたとしても許してやらない
ヴェルデはファミリーというものを重視していなかった。
彼にとって大切なのは研究することの出来る場と施設であり、逆にそれさえあれば他はどうでもいい。
そんな主義から、より良い条件を提示されればファミリーを裏切ったり抜けたりすることは多々あった。
ヴェルデはファミリーというものを重視していなかった。
研究さえ出来れば、他はどうでもよかったのだ。
アルコバレーノは呪われた子供であり、それ故に力は求められど忌避される。
前に属していたベルーザ・ファミリーもその傾向があり、ヴェルデは常に研究室に篭っていたし、そんな彼を好んで構おうとする人間はいなかった。それはドンであるドン・ベレーザでさえそうだった。
ヴェルデは数えるほどしか自分の上司の顔を見たことがなかった。
けれど、今は。
「次の会談には、おまえを連れて行く」
ゆったりと椅子に腰掛け、小さなヴェルデを上から見下ろして、ドン・ヴェレーノは言う。
彼は事在るごとにヴェルデを研究室から引きずり出したし、研究者である彼を畑違いである戦場に連れ出すことも平気でした。
面倒だなぁ、と思い、それは顔に出さずヴェルデはを見上げる。
「パパ・・・・・・ボク、開発中のマシンがあって」
「ヴェルデ」
ぎし、と椅子が音を立てた。緩やかに足を組み替え、が少女めいた顔で笑う。
その仕草にヴェルデは僅かに眉を顰めた。今のはベルーザの地下研究室で初めて対峙したときに、彼が見せたのと同じ顔だ。
のこの表情がヴェルデは嫌いだった。愛らしいとは思うけれど、心のどこかが警鐘を鳴らす。
艶やかな唇から奏でられる言葉は、赤子に言い聞かせるかのような、わざとらしい丁寧なもので。
「俺が、おまえに、ついてこいと言ってるんだ」
「・・・・・・判ったよ、パパ」
「いいか、ヴェルデ。忘れるなよ」
が立ち上がる。
見上げるしかない身長差に、ヴェルデは引きそうになる足を堪える。精一杯表情を出さないように、相手を睨んで。
逆光で顔の見えないを、震えそうな心で、見上げ、て。
「おまえが俺を裏切らないうちは、それ相応の対価を与えてやる。だけど俺を裏切ったそのときは、たとえアルコバレーノだろうが必ず殺す。おまえの才も能力も、持っているものすべてでもって」
「おまえは、俺だけのために尽くせ」
強張ったのは、心か、身体か。
踏み出された足にヴェルデは堪えきれず一歩下がった。
頭に載せられた手に、これ以上ないほどの恐ろしさを、覚えた。
2006年2月26日