01.そうして世界は平伏する
イタリア、数あるマフィアの中。
組織の大きさから中規模に属するヴェレーノ・ファミリーは、先日ドンが代替わりした。
六代目の二人の息子が互いに勢力を削りあっていた中、颯爽と現れた五代目の愛妾の孫。
遠い東の国の血を引く少年は、まだ15歳ながら、愛らしい少女のような容姿をしながら、天使のごとく血塗れた世界に舞い降りた。
そして少年は、すべてを一掃した。
暴力と謀略、そして何より悪魔のようなカリスマを持つ彼の前に、ヴェレーノ・ファミリーは平伏したのだ。
革張りの椅子に身体を預け、優雅な仕草でドン・ヴェレーノことは肘をつく。
彼が纏っているのは黒の学ランではない。細身を強調するようにデザインされた、端整なブランド物のスーツだ。
伸ばし始めた襟足が天然のウェーブを描き、彼の愛らしさを引き立てている。
けれど発されているのは紛れもない強者の威圧。
「アルコバレーノ?」
変声期を終えていない高めの声に、彼より三十は年上だろう男が頷く。
並んで立っている男たちは、六代目ドン・ヴェレーノのときからファミリーに属している幹部たちだ。
最初は皆、こんな子供がドンになるなんてと思っていたが、今はその考えは欠片もない。の無慈悲なほどの所業と絶対的なカリスマに、魂ごと魅入ってしまった。
「はい。総勢七名おり、現在はボンゴレ・カルカッサ・イタリア海軍などにそれぞれ属しています」
「それを一匹、手に入れろと?」
「アルコバレーノは呪われた子供と言われていますが、特殊な力を持っているのも事実です。ファミリーに損は与えないと思われます」
「『特殊な力を持っている』んだろ? その力で逆に壊滅されることはありえないわけ?」
「それは・・・・・・」
言いよどんだ部下たちに、は肩を竦める。
ちらりと己の左側に控えている佐知川を見上げ、問いかけた。
「都合がいいのは?」
「三つ先の街に居を構えているベルーザ・ファミリーが、機械に精通しているアルコバレーノを一人抱えているようです」
「あそこは確か麻薬と武器のパイプラインが太かったな。勢力は大きいが、ゴッドファーザーほどじゃない」
二人の遣り取りに部下たちが慌てたように顔色を変える。
「ド、ドン! ベルーザは我々よりも規模が大きく、勢力的にも格差が・・・・・・っ」
「馬鹿じゃないの、おまえ」
にこりと、は微笑んだ。
「格上だろうが何だろうが、俺が潰すって言ったら潰すんだよ」
颯爽と立ち上がり、微笑を浮かべたまま戦争を宣言するドン・ヴェレーノに部下たちは声なき悲鳴を上げた。
彼らの心中では敵わないという不安が大半を占めながらも、このドンならもしかしたらという期待が少なからず存在していたのも事実だった。
2006年2月17日