05.夜、世の中と己について、淀みなく問う





は暴力を嗜み、好んでいた。
手段として重宝していた。拳を突き出すだけで相手は反論を止める。蹴り上げれば従順になる。
わずらわしいものの多い世の中で、二手間で支配可能な、実に有効な手段だと思っていた。
そして彼は暴力を振るうことに何ら躊躇いを覚える人間ではなかった。

幼い頃から、は自分の価値というものを知っていた。
愛らしい容姿、中に秘められた強大な力。判断する頭脳、程よく欠落したモラルに、それを助長する度胸。
見事なものだと他人事のように思った。一介の女の腹から生まれたはずなのに、どうも出来すぎている。
おそらくこれらは、何時の日か行使するそのために整えられたものなのだろう。
そう考え、は日々を過ごしていた。退屈な毎日を、やはり他人事のように思いながら。

中学に入学し、風紀委員になってみた。校則を鑑みて、違反している輩を片っ端から沈めていった。
最初はうるさかった教師も、いつの間にか何も言わなくなっていた。気づいたら風紀委員は、自分がぶちのめした輩で構成されるようになっていた。
その中の一人が大貫だ。彼は力を求めて自分と相対し、敗れたことにより膝を折った。
佐知川は援助交際していたのを、目の前だったため叩き潰した。彼女はそれ以降、女だてらに風紀委員に名を連ねた。
彼らは有能であり、見所がある。そう判断したから近くにいることを許した。
毎日はやはり退屈だった。中学三年間、このままでは退屈で死んでしまうとさえ思っていた。



「あぁでも・・・・・・雲雀は、いいね」
夕暮れをとうに過ぎた応接室の中。革張りの椅子に座り、小柄ながらにも長い足を机に乗せる。
暗闇の中、漆黒の学ランを纏った小柄な姿が、ぼんやりと浮かび上がる。
愛らしい顔立ちの中で、瞳だけがぎらりと光る。輝きとは違った、どこか禍々しい光。
「あいつは見込みがある。俺に似て、退屈で暇そうだ」
細い指が組み替えられる。くくく、と笑う小さな声。
椅子に体重をかければ、ぎし、と鈍い音が鳴る。
開けっ放しの窓から入る月光に照らされ、甘やかな美貌が陶然と蕩ける。
愛らしく、愛おしく、天使のように模って。
―――闇の中、笑う。

「そうだな、雲雀にくれてやろう」

くすくす、という声が月下の中に広がる。
満月がただ静かに、の姿を見下ろしていた。



自分の価値というものを、彼は知っていた。
そして自分が「選ぶ側」の人間だということを、彼はとてもよく理解していたのだ。





2006年2月6日