03.凛然と立つ後ろ姿





並盛中学校風紀委員。それは、この街すべてを仕切り脅かす者の総称だった。
「とは言えど、仕事なんて大した物はない。精々目の前で風紀を乱す輩がいれば、軽く締め上げて注意するくらいだ」
喋りながらは歩く。けれど彼の言い分に反し、通りに並ぶ店の主たちは一様に深々と頭を下げている。
先を歩く人もに気づいては道を開け、通り過ぎればひそひそと囁き、その彼と共にいる雲雀までをも噂の口に上らせていた。
「・・・・・・注意って、力ずくでもいいわけ?」
「言葉で判らせるより理解が早いからね。そう、例えばこんな風に」
会話の流れでそうするのが自然かのように、は路地裏へと手を伸ばし一人の男を引きずり出す。
それを路上に放り投げると、すぐさまスニーカーの足が男の顔を踏みつけた。アスファルトとの間で、醜く歪む。
「俺のいる前で堂々と喫煙だなんて、命知らずだな」
突然の現状に悲鳴さえ上げられない男の口から、火をつけたばかりと思われる煙草が転がり落ちる。
同じ路地裏から、男と揃いの制服を着た女が飛び出してきた。
「ちょ、ちょっとぉ! あんた人のカレシに何してんのよ!?」
「うるさいな。雲雀」
「ったく・・・自分でやりなよね」
そう言いつつも、雲雀は女の方を乱暴に掴み、振り向いた彼女の頬を平手で打った。
彼らの行動を脅えながら見つめていた周囲がざわりと揺れる。崩れた女はまだ何か叫ぼうとしていたが、地べたに屈服させられたままの男が慌てて止めた。
「バカ野郎! こいつら、並盛風紀委員だぞっ!」
女の肩がびくりと震え、開いた唇がかたかたと震え始める。
はそれを満足気に見やってから、踏みつけたままの男に視線を戻した。
「高校生の喫煙は禁止。次、俺の前でやったらこれくらいじゃ済まさないよ」
「・・・っ・・・はい・・・!」
「いい子だ」
足を下ろせば、男の顔には真っ赤な靴の跡がついていた。
学ランの裾を翻し、歩き出す。そんな後ろ姿に脅えていた女が叫んだ。
「何よ・・・っ! チビで女顔のくせに!」
あ、と雲雀が呟いた。地雷かな、と考えている内に前を歩くは振り返り、女の元まで戻る。
恐怖に震える女を醜いと雲雀は思う。そんなになるなら縮こまって黙っていればいいものを、余計なことまで口にして。
馬鹿だね、と吐き捨てている間に、は女の胸倉を掴んでいた。
「俺がチビで女顔? それじゃあさ」
至近距離でにこりと微笑み、それはそれは美しく。
それはそれは、鮮やかに。

「そんな男より醜いおまえには、価値なんて全くないんだね」

可哀想に。そう告げる声は心からの哀憫に満ちていた。
くすりと笑い、指を離す。その仕草すら優雅で、崩れ落ちる女の無様さを引き立てた。
もう用はない。踵を返してきたは、雲雀を見上げて誇らしげに唇を上げる。
「コンプレックスなんて、俺は感じないよ」
颯爽と歩む後ろ姿は、凛然。



「だって俺が最高だということを、俺自身とてもよく判っているからね」





2006年2月3日