02.馬鹿な子ほど可愛い





「一年三組十四番、雲雀恭弥さん。風紀委員長がお呼びです。応接室までいらして下さい」
昼食の時間を迎えて騒がしかった教室が、一瞬で静まり返った。
窓際の席であくびをしていた雲雀は、真横に立った影を見上げる。
並盛中の制服を楚々と着こなした女生徒の名札は三年。細い縁の眼鏡をかけ、涼やかな雰囲気をまとう美人だった。
けれど雲雀は構うことなく彼女を無視し、暇そうに外を眺め続ける。
「逆らうようならば、それ相応の手段を取ることを許可されています。それでも宜しいですか?」
「・・・・・・ワォ、君が僕の相手をしてくれるの? それはそれは楽しみだね」
「では、僭越ながら」
女生徒がしなやかに片手を動かした次の瞬間、雲雀の身体は拘束されていた。
太い、ゴム製の何かが身体を縛り上げている。それが鞭だと気づくのに少し時間がかかった。
その間にどこから現れたのか、学ランを着た見るからに不良とされる男子生徒たちが雲雀を担ぎ上げ、運び出していく。
「ちょっと・・・・・・何のつもり?」
眼差しを険しくするけれども、この格好では何を言っても通じないだろう。
雲雀のそんな思惑通りにか、女生徒はただ静かに眼鏡を押し上げる。
「粗雑に扱ってよいと、様から許可を頂いてますので」
彼女の腕には、忘れられない腕章がつけられている。



連れて来られた先は、言うまでもなく応接室だった。
雲雀が初めて足を踏み入れたそこは、公立中学の一室とは思えないほど豪華にあつらえられていた。
黒光りする皮のソファーに、樫で出来た机。飾られる絵や器はそれなりの価値を感じさせ、何より床は一面のビロード。
そんな部屋の中央、一人がけソファーに腰掛けていた男子生徒がかすかな所作で入ってきた彼らを見やる。
忘れることのない少女めいた美貌は、間違いなく雲雀を地に伏せた相手だった。
彼は笑う。まるで悪戯が成功したかのように、隣に控えていた大柄な男子生徒の腕を叩いて。
「ほら見ろ、大貫。やっぱり縛られてきただろ」
「ええ、あなたの言ったとおりですね」
「ヒヨコってのはそんなもんなんだよ」
くくく、と腹を抱えて笑い、は軽く手を振った。
「佐知川、放してやれ。おまえらもご苦労だったな」
「「「はっ!」」」
雲雀を抱えていた男子生徒たちが荷物のように彼を床に放り投げ、規律正しく一礼してから出て行く。
女生徒は雲雀を縛り上げていた鞭を手際よく解き、それを綺麗にまとめ自身のスカートへと差し戻した。
「さて、雲雀恭弥」
ソファーに座るよう指し示し、はにこやかに告げる。
「ここに呼ばれた理由が判るか?」
「・・・・・・さぁ? 僕はご立派な風紀委員長様から、生活態度について有難いお言葉を頂けるのかと思って来たんだけど?」
「二割だな。俺の用件はこれだ」
がさり、と黒い何かがテーブルの上へと投げ出された。
詰襟に金色のボタン。腕章はないけれども、それは目の前のとまったく同じ。

「雲雀、おまえは風紀委員に入れ」

目を細めて笑うは相変わらず少女めいた美貌をしていて、だからこそ毒々しさが艶やかな華になっていた。
おまえにブレザーは似合わないよ。そう、彼は雲雀を笑った。





2006年1月31日