01.ひとり、君と出会う日を待っていた
唐突に横っ面を引っ叩かれた。
完全に防御が追いつかず、頭はそのまま校舎の壁にぶつかる。
こめかみが擦れ、液体が湧き出す。頬を伝うそれらを緩慢に拭い、雲雀恭弥は目線を上げた。
薄暗い校舎裏、逆光を背に立っている影が一つ。
「へぇ、今ので倒れないのか」
声が聞こえてきた。幼い。自分よりも高い、まるで少女のような声。
だけど影が身にまとっているのは黒の学ランだった。並盛中学指定のブレザーではなく、漆黒の。
「見ない顔だな、おまえ一年?」
背も低い。160センチの自分より10センチくらい低い。そう、雲雀は測る。
流れる血が止まらなくて、新品のブレザーの袖で拭った。
「・・・・・・人に聞く前に自分から名乗るのが常識じゃない?」
「先輩に対する態度がなってない。減点一」
言うが早いか、音もなく蹴りが飛んでくる。狭い空間で避けることも敵わず、雲雀は両腕を上げてガードした。
その上からでも、骨に響く威力。小さな身体からは想像もできない強靭な力。
間髪入れずに続く第二撃。赤く染まる視界で反撃は難しく、雲雀はただ舌打ちする。
けれど繰り出した一撃に、男は楽しそうな歓声を上げた。
「ははっ、いいね。それでこそ調教のし甲斐がある」
男が身を返すと、差し込んできた光が彼を照らした。
学ランと同じ黒髪が柔らかに姿を飾って、少女めいた美貌が艶やかに微笑む。
「おいで、ぼうや」
手招きを合図に、戦闘は始まった。
狭いこの場所から見上げる空は、細く区切られた作り物のよう。
そんな視界で男は笑う。
「これに懲りたら、もう遅刻するなよ?」
遠ざかっていく気配に、叩きのめされた身体は手も足も動かせなかった。
ただ学ランの腕で揺れる腕章だけが、目に焼きついて離れなかった。
その男が並盛中を仕切る風紀委員長―――だと、後に雲雀は知ることになる。
2006年1月31日