あまりの光線の強さに、はいまだチカチカしている目を擦った。
その拍子に思わずふらついてしまって、横から出された手に支えられる。
見上げようと顔を上げれば、その頭をよしよしと撫でられて。
セントラルで自分にこんな行為をするのは一人・・・・・・二人しかいない。
この手の感じからいって、きっと。
「・・・・・・ヒューズ中佐?」
問いかけに笑った相手の顔が、ぼんやりと視界に映ってきて。
「大丈夫か?」
優しく確認してくる言葉には頷いた。
セントラル駅ではかなりの軍人が、巨大に開いた穴の周囲を忙しなく走り回っていた。
白兎の行進曲
「ふむ、では男は自爆しようとしたのか」
事実を押さえる声に、は頷く。
隣ではヒューズが、そして背後ではロスとブロッシュが姿勢良く背筋を伸ばしている。
特に後ろにいる二人はひどく緊張しているのだろう。
は背中越しにそれを感じとって、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「周囲の空気を圧縮して被害を最小限に留めようとしたんだけど、結局は駅を一部破壊しちゃったし。すみませんでした」
「いや何、一般人に被害はなかったのだから十分だ」
「そう、なら良かった」
があまりそう思ってはいない素振りでそう言えば、キング・ブラットレイは楽しそうに目を細めて。
『大総統にタメ口で話すなんて!』と、ロスとブロッシュはの後ろで恐ろしさのあまり蒼白になっていた。
なんて厚顔不遜な子供なのだろう、と。
国家錬金術師試験のときのと大総統の初対面を見ているヒューズでさえ、内心では困ったように苦笑している。
「目はもう大丈夫なのかね?」
「あぁ、平気。結合法則で出るエネルギーが押さえきれなかっただけだし、人体に影響はないと思う」
「では仕事を頼んでも大丈夫そうか。それは良かった」
人の良い笑顔で言われた言葉に、ピクリとのこめかみが引きつった。
「・・・・・・・・・やっぱダメ。あぁ何だか物が良く見えないや。早くどこかの避暑地で休暇を取らないと」
「ふむ、それは大変だ。セントラル一の医者を紹介するとしよう。今、医療部隊を呼ぶから少しの辛抱だぞ?」
「そんな大総統の恐れ多いお力を、一介の子供ごときに使用なさるなんて! 俺は一人でも大丈夫ですから、どうぞお気遣いなく」
「いやいや君は私の大事な部下だからな。可愛い部下は大事にしなくては」
「可愛いって言うなっ!」
ガウッと噛み付くと、それを笑ってあしらいながら頭を撫でる大総統。
どこからどう見ても、父と子の・・・あるいは祖父と孫の微笑ましい遣り取りで。
「だ、大総統が・・・・・・!」
「わ、笑ってる・・・・・・!?」
ロスとブロッシュの驚愕に、ヒューズは今度は顔に出して苦笑した。
彼らのような階級では、直接大総統と顔を合わせることも滅多にない。
式典などで遠くから眺めるのがほとんどで。
厳格な雰囲気を持って場を統べる姿からは想像も出来ない、目の前の光景。
「だから、俺はエドたちと待ち合わせしてるから嫌だって!」
「確か四日後にサウスシティだったと思うが」
「それまでに終わらせろなんて無理言うなよ? 少なくとも三日後の午後には発たなきゃいけないんだから」
「それだけあれば十分であろう? 万物の錬金術師」
「俺、セントラルに詳しくないから無理だし」
「では詳しい者をつけよう」
余計なことを言った、とは顔に思わず書いてしまった。
大総統はおおらかに笑ったまま、の頭をもう一度撫でて。
そして視線を、驚いて硬直したままの二人へと向ける。
「ロス少尉、ブロッシュ軍曹」
「「――――――は、はいっ!」」
傍からでも緊張が見て取れる様子に、ふてくされているに変わって、大総統は穏やかに言う。
「大総統の名において命ずる。今この時より事件解決まで、万物の錬金術師の補佐をするように」
「「――――――はっ! 畏まりました!」」
「と思ったが」
「「・・・・・・は?」」
まるで子供のように続けられた言葉に、思わず二人も呆けた答えを返してしまって。
大総統は何やら楽しそうに笑いながら、ポンポンとの頭を叩いた。
「やはり補佐についてもらうのは、ロス少尉だけにしよう。何、ブロッシュ軍曹の腕前を疑っているわけではない」
「では何故・・・」
戸惑ったような声を上げるロスに、大総統はニコリと笑う。
その瞬間にヒューズは真意を理解して、そして同時にも声を荒げた。
「ちょっ! おっさん、てめぇ――――――!」
「いや何」
大総統に片手を振られて、ヒューズは笑いながら喚くを押さえ込む。
エドほどではないが小柄な身体が、腕の中でバタバタと暴れまくって。
それを見ながら、大総統は実に楽しそうに笑って言った。
「万物の錬金術師は、年上の女性が好みらしいのでな」
ふざけんな、という叫びと共にの蹴りが放たれて、でも大総統はそれを余裕でヒラリと避けて。
ヒューズが楽しそうに声を上げて笑うのを聞きながら、ロスとブロッシュは顔を見合わせた。
「・・・・・・頑張って下さい」
無責任にヘラリと笑うブロッシュに、ロスは眉を顰めながら、まだ大総統とじゃれている少年を振り返る。
そのときにバチッと目が合ってしまって。
瞬間的に顔を赤くしたに、大総統とヒューズはやっぱり声を上げて笑った。
2003年12月16日