好きだから、何でもしたいって思うんです。





Because I love you.





「こんちはー」
明るい声を上げて入ってきた少年に、東方司令部の面々が「よう」や「いらっしゃい」などとバラバラに挨拶を返す。
は勝手知ったる様子で机の間をすり抜けてくると、窓際のソファーに意外な人物を見つけて不思議そうに首を傾げた。
「・・・ヒューズ中佐。何でまた東方司令部に?」
片手を上げて笑いかけ、ヒューズは座っていた位置から横にずれてスペースを空ける。
示された場所には大人しく腰を下ろした。
「ちょっと仕事でな。こそどうした? エドもアルも連れないで」
「二人は今日は宿で資料を調べるってさ」
だから俺は単独行動、と言うの頭をヒューズは笑いながらがしがしとかき混ぜた。



は、一見すると美少女にしか見えないが、これでも立派な15歳の少年である。
しかも原子さえあれば何でも創り出すことが出来るという錬金術師でもあって。
旅の仲間であるエドワード・エルリックに勧められて受けた国家試験にも見事に合格し、今は『万物の錬金術師』という二つ名を持っていた。
ただ、彼はその可愛らしい容姿に似合わず、気に入らない相手には容赦がない。
そしてそんなの両足は機械鎧に包まれていて。
『探している奴らがいる』という目的からエドたちと一緒に旅を続ける彼は、可愛らしいだけの少年ではなかった。
今は初めて会ったときよりも格段に笑顔を見せるようになっているけれど、その心に闇を抱いているのも確かな事実で。
けれど今、は柔らかな表情で笑っている。

が笑顔を浮かべるのは、たった一人の女性が理由だった。
東方司令部所属、リザ・ホークアイ中尉。

は彼女のことが好きなのである。



とりあえずヒューズと久しぶりの会話を交わした後、はキョロキョロと執務室の中を見回した。
大好きな金色を帯びた茶の髪を探すが、いつものベレッタは見当たらなくて。
「・・・・・・ヒューズ中佐」
「中尉なら今日はニューオプティンに行ってもらっている」
微かな不安を覚えて尋ねてみれば、答えたのはヒューズではなく、専用の執務室から出てきたロイだった。
ムッと眉を顰めるを見下ろして、ロイは楽しそうに笑みを浮かべる。
「残念だったな、
「ううっわ、すっげームカツク。何でアンタがリザさんの上司なんだか」
「それは私の人徳というものだろう」
「「嘘くさっ!」」
とヒューズの声がハモッた。
そんな二人に苦笑を浮かべながら、ロイは近くにいた士官に書類を渡してからソファーへと腰掛ける。
特に急ぎの仕事もないのだろう。自らコーヒーを入れるところにのんびりとした様子が見て取れた。
「それで、今日の貢ぎ物は何だい?」
「貢ぎ物言うな。それにアンタにやるものはない」
「つれないな。どのみち中尉がいないのだから余るだろうに」
「リザさんはいなくても、ヒューズ中佐がいるから」
そう言い捨てては持参した紙袋を膝へと乗せた。
ガサゴソと中を探り、透明な袋でラッピングされている何かを取り出して手渡す。
「はい、ヒューズ中佐」
「お? 何だ、こりゃ」
顔の前まで持ち上げてみれば、茶色のコロリとした物体が袋の中に納まっている。
ロイも不思議そうに向かい側からそれを見つめた。
「外国の菓子祭りをやっててさ、サーターアンダギーっていうんだって。ドーナツの一種だって言ってた」
「ほー。俺が貰っていいのか?」
「本当はリザさんに持ってきたんだけど、いないし。だからどうそ」
ちょっとだけ寂しそうに言うの頭を撫でて、ヒューズは受け取った。
「ありがとな」
「どういたしまして」
女の子のような顔でが笑う。
まるで父親のようにヒューズが彼に接する光景は、見ていてとても微笑ましいもので。
ロイは小さく笑みを浮かべ、次いで拗ねたように唇を尖らせた。
「・・・・・・君は本当に私には冷たいな」
「俺の愛はすべてリザさんのものだから」
「ヒューズや鋼のたちには振りまいているのに?」
「じゃあ訂正。俺の愛はリザさんと長時間一緒にいる男には与えないから」
それが例え仕事だとしても。
言葉を続けて、はにっこりとロイに向かって微笑んだ。
通訳するなら『俺の大好きなリザさんを長時間拘束するなんてズルイんだよ、馬鹿大佐』である。
しっかりとその意味を受け取ったヒューズは爆笑し、ロイは更に苦い顔になって。
はとても楽しそうに笑った。

「俺はリザさん一筋だからね」



イーストシティにいる限り、は毎日東方司令部に顔を出す。
その際には必ず菓子を持参。
いつも仕事に真面目に取組んでいる彼女にとって、ティータイムが少しでも癒しになればと思って。
リザのことが好きだから。

「だから、何でもしたいって思うんだよなぁ」

照れたように頬を掻くにヒューズは満足そうに頷き、ロイは苦笑するしかなかった。



しばらく話に花を咲かせた後、ロイとヒューズが仕事に取り組み始めると、はソファーにゴロリと横になってスヤスヤとお休み体勢に入った。
どうやら出張先のリザから連絡が入るまで待つつもりらしい。
ある意味、不貞寝とも取られかねない行動に司令部の面々は苦笑を漏らしたりして。
そんな中、タイミング良く電話のベルが音を立てる。
一回鳴り終わるか終わらないかというスピードで、ロイが受話器を持ち上げた。
「はい、執務室。・・・・・・私だ。回してくれ」
ニヤッと目で笑う様子に、ヒューズは電話の相手がの待ち人だと知る。
けれどそれを待ち望んでいた張本人はというと、今はグッスリと夢の中で。
あーあぁ、と思わず溜息が漏れた。
ロイはいつもより音量を落とし、楽しそうに笑いながら受話器へと話しかける。
「あぁ、ご苦労だった。何か問題は? ・・・・・・それは後で報告書にまとめてもらえると助かる。現地の指揮官はどうだった?」
ヒューズはそんな会話を聞き流しながら、お休み中のの元へ近づいて、その頬を指でつついた。
可愛らしい寝顔が一瞬歪む。
「こちらは特に何も無い。まぁしいて言えば、可愛らしくて生意気な錬金術師が、今日も想い人に会いに来たくらいだな」
「ロイ、ちょっと貸せ」
がどうしても起きないと判断したのか、ヒューズが手を伸ばして受話器を奪い取る。
回線の向こうから聞こえてくるのは紛れも無い、リザ・ホークアイの声だった。
「よぉ、お疲れさん」
『ヒューズ中佐でいらっしゃいますか?』
「おぉ。今日は中尉の変わりにドーナツをご馳走になってな。外国のものらしいが結構美味かったぞ」
『そうですか。それでは君も喜ぶかと』
「いやいや、俺に礼なんか言われたって仕方ないだろ。は中尉のために買ってきたんだから」
苦笑交じりで話すヒューズを他所に、今度はロイがの元へ近づき、その髪を軽く引っ張った。
ペシッと伸びてきた手がそれを払い落とす。
眠っていてもロイに対しては冷たい態度を取る様に、思わず声を上げて笑いそうになってしまって。
電話の向こうにいるだろうリザに、笑みを噛み殺しながら話しかけた。
「明日には帰って来るんだろ? 何か土産でも買って来てやんな。中尉からのものならどんなものでも喜ぶと思うぜ」
『・・・・・・・・・』
「ちょっとくらい可愛がったって罰は当たんねぇよ」
戸惑って沈黙する相手に言ってやれば、小さく息を吐く音が聞こえてきて。
『・・・・・・そうですね、何か』
「道端の石ころでも拾っておいてやれ」
ヒューズの言い様にロイが小さく吹き出して、そこで再び受話器を戻す。
やっぱり笑いながら話をしているロイの横で、ヒューズはへと近づいて腰を下ろした。
どんな夢を見ているのか、寝顔の眉間には皺が寄っていて。
それを指先で伸ばしてやりつつ、先ほど貰ったドーナツの味を思い出す。
あれは実に美味かった、なんて考えながら。
「おまえ、意外と報われてると思うぞ」
ソファーに散らばっているの髪を撫でながら、ヒューズは温かく微笑んで。

「・・・・・・ご苦労さん」

明日にはきっと満面の笑顔が見れるだろう。
そう考えて、今はただ優しく撫でるのだった。



後で「何で起こしてくれなかったんだよ!」とに責められるとは露ほどにも知らずに。





このお話は麻生蕾様に捧げます。5963hitどうもありがとうございました!
リクエストは「5963(ゴクローサン)にちなんだドリーム」ということで。
『森羅万象』は中尉夢なはずなのに、何故か大佐と中佐ばかりで肝心のホークアイ中尉のお姿が見えません・・・。
ご要望通りウィンリィの出番はなしでお送りいたしました(笑)
このような話ですが、受け取って頂けたなら幸いです。
どうもありがとうございました!

2003年12月4日