「それじゃ、私は仕事があるから」
にこやかにそう言ってリザは去って行った。
何故か執務室ではなく、地下の射撃場に向かって。
「・・・・・・・・・」
とりあえず、ひよこのごとくは後を追っていった。
希望の唄
バタンと目の前でドアが閉められる。
その勢いと音からして何とはなしに締め出されてしまった。
どうしよう、などと考えながらは射撃場の前に突っ立っていて。
彼の目的の人物であるリザは、ついさっきこの部屋のドアをくぐっている。
国家錬金術師とはいえ、一般軍人ではないはこの部屋の入ることは許されていない。
どうしよう、と再び考えながら、とりあえず廊下に腰を下ろした。
時折不思議そうにこっちを見てくる司令部の面々に、にこやかに手なんか振ったりして。
は壁にもたれかかって天井を見上げる。
何となく、まだ頬が熱い気がした。
ウィンリィにキスされた箇所が、小さな熱を灯している。
何だかなぁ、とは頬に手を当てて苦笑した。
とウィンリィ。
同じ15歳の少年と少女は隣に並んでも何ら違和感がなかった。
美少女めいた顔立ちのも、女の子であるウィンリィの隣にいれば立派な少年に見えて。 ほとんど同じ目線で物を見ていた。
笑いあう顔が自然だった。
好きだと言ったとき、何も違和感を覚えなかった。
空になった弾倉を取り出して新たなものを装着する。
そのまま足を開いて両手を上げた。狙うは一点、頭の中心。
響く音を立てて発射された弾丸は狙いを逸れて、的の首元を少し掠めた程度だった。
リザは軽く息をついて握っていた銃を下ろす。
的に開いている穴は、どれも少しずつ中心からずれていた。
原因は判っている。判っているからこそ、溜息をつかずにはいられない。
浮かぶのは楽しげに笑っていた少年と少女。
「・・・・・・まだまだね、私も」
呟いて再度銃を構えた。
「・・・・・・そんなとこで何やってんだぁ、」
「あ、ハボック少尉」
用があって通りかかったのか、いつものように煙草を吹かしているハボックが声をかけてくるのをは下から見上げて笑った。
「ココ、射撃場だぞ?」
「知ってる。ちなみに今はリザさんの出待ち中」
「中尉の? また大佐が何かやったのか?」
返された言葉に、はきょとんと首を傾げた。
どうしてそこでロイの名前が出てくるのだろう。
不思議に思ったの様子を察したのか、ハボックは頭を掻きながら説明をプラスして。
「あー・・・中尉はな、機嫌が良くないときは射撃場に篭もるんだよ」
「・・・・・・大佐が仕事をさっさと切り上げてデートに行くときとか?」
「そう、まさにそれ」
正解、と言ったハボックには大きな目を更に丸くする。
驚いたような表情に、ハボックもつられて目を見張ってしまって。
信じられないようにが呟いた。
「・・・・・・・・・『機嫌が悪いとき』?」
「え? あぁ」
「・・・・・・そっかぁ」
そうなんだ、と繰り返しては笑った。ひどく嬉しそうに、まるで花が咲くように。
見ていたハボックにさえも伝わるほどに喜びを表して頬を薄く染める。
その様子を見て、やっぱり美少女だな、なんてハボックは思った。
心の底から幸せそうに、は目を伏せて微笑した。
心に灯がともる。温かくなる。
嬉しいな、好きだなと思う。
好意の欠片を示されるだけでこんなに嬉しい。
キィ、と微かな音を立てて射撃場の扉が開く。
誰が出てくるのかは何となく判ったから、は満面の笑顔で見上げた。
少し驚いたような表情に益々愛しさが募ってしまって。
「リザさん、好き」
一言だけじゃ想いなんて到底表すことは出来ないけれど、今はまだこれだけで。
少しでも近くで顔が見えるように立ち上がった。
身長差からいってまだ自分の方が低いのだけど、これも先のことを考えれば喜びの一つに変わる。
何もかもが嬉しい。あなたにまつわるすべてのことが。
「大好き」
笑ってくれる相手に心が温かくなって、けれど困ったような雰囲気に申し訳ないと思ってしまって。
本当は触れたかったけど、止めておこうと踵を返した。
良いことを知れたから、今日はもうこれで十分。
背中に向けられる視線を感じたまま、鋼の足で走り出した。
教えてもらったことに自然と頬が緩んでしまって。
『中尉は機嫌が悪いときに射撃場に篭もる』
――――――ねぇ、少しは期待してもいい?
2003年11月29日