東方司令部のある街の駅で、今一人の少女が列車から降りようとしていた。
長い髪に、耳元で光るピアス。年齢は15歳くらいだろうか。
可愛らしい顔は、今は長旅の疲れでうんざりとしていて。
利用者の多い駅の構内で、人込みに流されそうになりながら、少女が怒り気味に呟く。
「もーっ! エドとアルってばどこにいるのよ!」
知り合いの姿を見つけようと周囲を見回せば、何故かこちらを見ている人物と目が合った。
その人物は少女を確認すると、器用に人の間をすり抜けて近づいてくる。
そうやって少女の目の前まで来ると、美少女にも見えかねない微笑を浮かべて言った。
「ウィンリィ・ロックベルさん?」
「・・・・・・え?」
顔を上げる少女に、ニコッと笑って。
「俺は・。エドとアルに代わってお姫様をお迎えに参上いたしました」
芝居がかった仕草で頭を下げる。
これが少女と少年の出会いだった。
A girl meets a boy.
「えーっ! エドもアルも資料室に篭もりっきりぃ!?」
ウィンリィの驚いた声に、は苦笑しながら頷く。
その手には彼女の荷物である中型のトランクを持ちながら。
「そう。何でも興味深い資料が見つかったらしくて。昨日からずーっと」
「でもエドは右腕の調子が良くないんでしょ? それであたしが呼ばれたのに」
「たしか足で資料をめくってたような」
「・・・・・・心配する必要もなかったみたい」
口元を引きつらせながら呟くウィンリィにが笑う。
「でも調子が悪いのは本当みたいだけど。最近はなるべく左手で動いてるし」
ウィンリィが眉を寄せる。
「まさかまた無茶な錬成してあたしの機械鎧を壊したんじゃ・・・」
「・・・・・・・・・」
「その沈黙は何!?」
「俺はエドの友人なので何も言えマセン」
「言ってるじゃない!」
むっと頬を膨らませるウィンリィに笑いかけながら、は軍とは少し違った方向へと足を向ける。
「どこ行くの? 軍はこっちでしょ?」
不思議そうな顔をする少女にいたずらめいて笑って。
「自業自得なエドを少し待たせたって平気だよ。せっかく東方中心部に来たんだから店とか見ていきたくない?」
「・・・・・・いいの?」
「俺ならいくらでも付き合うよ。とりあえずは何が見たい?」
気前の良い返事に、ウィンリィは幼馴染のことなどさっぱり切り捨ててリクエストした。
「機械鎧の専門店!」
「承りました」
笑いながら繁華街へと足を踏み入れる。
「さんとウィンリィ、遅いね」
「が一緒なら大丈夫だろ。アル、そっちの文献とって」
「はい、兄さん。あとこれなんだけど、公式が複雑で・・・」
「どれどれ?」
エルリック兄弟がそんな会話を交わしている頃、件の二人は大規模な機械鎧ショップのウィンドウを覗いていた。
「〜〜〜〜〜〜〜っ素敵! これって新作も新作の機械鎧じゃない! 関節部にジェルを用いてるから、すごく動きが滑らかになるっていう! キャーッ初めて見たっ!」
「中にも入ってみる?」
「いいのっ!?」
黄色い声を上げるウィンリィに引くこともなく、は店のドアを開けてやる。
軽い足取りで入っていくウィンリィは、天井まで届きそうなくらい積み上げられている機械鎧たちに歓声を上げた。
「さすが東方司令部のある街っ! 品揃えが違うわ!」
「大体の部品はここで揃うって評判だよ。オーダーメイド制で設計技師も何人か雇ってるって。奥では実際に作ってるところが見られるし」
「本当っ!? どこっ!?」
「あっち」
まだ年若い二人がこんな専門店にいるということで、周囲の目がチラチラと向けられている。
けれどハイテンションなウィンリィはそれに気づかず、はそれを無視して店内の奥へと進んで行く。
見えてきた一面ガラス張りの向こうでは、何人かの男達が大仰な機械や細かい部品などと格闘していた。
「すごい・・・・・・! ここにあるの、全部最新機種だわ」
食い入るように見つめるウィンリィの横で、も同じように製造過程を見やる。
「でも最新機種にはまだ色々と問題点もあるから。俺はやっぱり自分に合った型のがいいと思うよ」
「そうなのよねぇ。個人の用途に合ったものが一番だし。その点でいくと、やっぱりエドはセラミックの方がいいのかなぁ・・・」
「確かに今のだとちょっと重いかも。でもエドは戦闘重視だからセラミックだと破壊されやすいんじゃない?」
「強度がね・・・。後は中の支柱を変えるとか」
「神経系をどこまで守れるかが問題だな。この際だから全部まとめてしまうのもいいけど・・・」
「それだともしものときに大変じゃない。エドのことだから戦ったりすると無事じゃ済まないし・・・・・・・・・って」
言葉を途切らせて、ウィンリィが隣を見る。
そこにはさっき出会ったばかりの、エドの友人がいて。
そのときになって初めて、ウィンリィはの造作が整っていることに気づいた。
美少女のように見えるけれど、紛れもない美少年。
が振り返って微笑む。
「どうかした?」
カッとウィンリィは頬を赤く染めた。
「う、ううんっ! ・・・・・・すごく機械鎧に詳しいのね?」
「あぁ」
なんだ、というように明るく頷いて。
「俺の両足も機械鎧だからさ。自然とそうなったのかも」
後で見てみる? というの言葉に、ウィンリィは勢い良く首を縦に振った。
しばらくそこで機械鎧談義をしてから、二人はようやく店を出た。
ウィンリィはというと、配達してもらうように注文した部品の一覧表などを手にしていて。
「あ、ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いい?」
「もちろん。何を買うの?」
尋ねてくるウィンリィに、ははにかむ様に口元を緩めて笑った。
「こんにちはー」
迎えに行くとが出て行ってから二時間、ようやくウィンリィが東方司令部へと到着した。
それは資料室に篭もっていたエルリック兄弟も、遅すぎると心配をし始めていた頃で。
エドが持っていた本を放り投げて怒り声を上げる。
「おせーよっ! どこ寄り道してたんだよ!?」
「機械鎧の専門店。もう色々すごくって目移りしちゃった!」
「ウィンリィ・・・・・・相変わらずだね」
「に迷惑かけなかっただろうな!?」
「かけてないわよ。だって快く付き合ってくれたもの。ねぇ?」
首を傾げられて、が笑いながら頷いた。
エドはむっと頬を膨らませて、ぎこちない動きで右腕を突き出す。
「・・・・・・ならいいけど。ほら、さっさと治してくれよ」
「治してくださいでしょ? あたしの作った機械鎧を毎回毎回雑に扱って! 今回は一体何をしたわけ!?」
「別にいいだろっ」
「そんなこと言うと治してあげないわよ!」
反論できずに黙り込むエドを見て、ウィンリィはから受け取ったトランクを開き、スパナからドライバーなど、様々な部品を広げ始める。
あまり見れないその様子に、場所を提供している東方司令部の面々も興味深そうに覗きこんできて。
ウィンリィは各部の損傷具合を確かめて、安堵したようにため息をついた。
「・・・・・・良かった。神経部の疾患じゃないみたいね。これなら部品交換で治る」
「ウィンリィ、この前の定期検査で手ぇ抜いたんじゃないのか?」
「なぁんですってっ!?」
いつもは子供らしかぬ『鋼の錬金術師』が年齢相応にしているのを見て、その場にいた者たちが楽しそうに笑う。
はキョロキョロと周囲を見回すと、近くにいたハボックに尋ねた。
「少尉、リザさんは?」
「中尉なら大佐の補佐で会議に出てる。そろそろ戻ってくるんじゃねぇか?」
「そう、ありがと」
礼を言うと、手に持っていた小さな紙袋を抱えなおして執務室から出て行く。
ネジを取り替えながらそんな様子を横目で見ていたウィンリィは、目の前の相手にだけ聞こえるように小さく呟いた。
「・・・・・・ねぇ、エド」
「あ?」
「って、恋人とか、いるの?」
2003年11月24日