「やぁ」
突如現れた人物に、ブランチを食べていたエド・アル・の三人は固まった。
(どうしてブランチなのかと言うと、深夜まで資料を漁っていて寝坊した為)
扉から入ってきた人物。
ヒューズはいい。この家の主人だし、お世話にもなってる。
ロイもいい。おそらく仕事でセントラルに来たから寄ってみたのだろ。彼とヒューズは親友だから。
・・・・・・問題は、次の人物にあった。
「――――――っ!」
「・・・って待てよ! 逃げんなっ」
万物の錬金術師、顔を真っ青にして窓から逃亡を計る。
しかしそれもエドの伸ばされた手によって遮られた。
リビングのドアのところにはもう一人。

リザ・ホークアイが立っていた。





最初のキス





「〜〜〜〜〜〜放せエドっ! 俺のことを思うなら放せ!」
のことを思うから放さないんだろ!? アルっそっちも抑えろ!」
「うん! ほら、さん! 我侭言わないでっ」
ジタバタと暴れるを押さえ付けるエドとアル。
しかし這ってでも逃げたいのか、床に押さえ付けられているはそれでも窓へと向かっていて。
「・・・・・・・・・親亀子亀か?」
「この根性には感服するな」
ヒューズとロイは団子になりつつある三人を楽しそうに眺めている。
右腕と左足が機械鎧のエドと、中身がないとはいえ全身が鎧のアルに乗っかられていい加減力が尽きたのか、最後の勢いでがガバッと立ち上がる。
その拍子に豆と鎧が転がり落ちた。
一瞬を逃さずには窓枠へと飛び乗って。
「じゃあお邪魔しまし――――――っ」



ドンッ



の動きを止めようとヒューズがナイフを取り出したよりも、ロイが指を鳴らそうとしたよりも。
エドが手の平を合わせるよりも、アルが白いコートの裾を掴もうとしたよりも。
何よりも早く。
・・・・・・・・・弾丸が、の頬に一筋の線を描いた。



沈黙が広がる中で、リザが拳銃をホルスターへと戻しながら口を開く。
「申し訳ありません、中佐、大佐。少し君と二人にして頂けないでしょうか」
「・・・・・・気の済むまでドーゾ」
顔色一つ変えないで発砲した彼女に、ロイはなんて副官を持ったんだ、などと思いながらヒューズが許可する。
その間にロイは固まってしまっているエドとアルを回収して。
蒼白な様子のに、初めて見る顔だと思いながら声をかけた。
「往生際が悪いぞ、
泣きそうに戸惑う顔に、自然と笑みを浮かべてしまって。
そしてエドとアルを引きずったままヒューズと共にリビングを後にする。
扉が、音を立てて閉まった。

残されたのは、二人。



ロボットのように固まってしまったは、それでもどうにか窓枠から足を下ろす。
さすがに、これ以上逃亡するわけにはいかない。
ただ、心の準備が出来てなかった。
・・・・・・・・・もう、会うことはないと思っていたから。
「・・・・・・怪我は?」
響いてきた声に思わず顔を上げそうになって、けれど背けてが答える。
怪我。たぶんさっきの一発のことじゃない。おそらく、このまえの仕事のこと。
「・・・・・・・・・ない、です」
カラカラの声で答えた。
「情報は貰えたの?」
「・・・・・・・・・はい」
「そう、良かったわね」
なんだかやけにその言葉は冷たく感じられて、がビクッと肩を震わす。
リザの視線を感じながらも顔を上げられない自分に、情けないとは思った。



一人で、一人でいた頃は、ずっと独りで生きていくと思ってた。
近しい人もいなかったし、自分の力しか頼れることは出来なかった。
だって、自分は自分を裏切らない。だから。

だけど、信じることを知ってしまって。

自分には目的があるのだから、それを果たすためには何でもすると決めたのだから。
だから、他人に受け入れてもらえなくて当然だと思ってた。
独りで生きてくと決めてたから、それでいいと思ってた。

だけど、信じてもらえることを知ってしまって。

受け入れてくれる人がいるから。
こんな自分でも好きになってくれる人がいるから。
それがどんなに嬉しいことか、どんなに温かなことか知ってしまったから。
だから、望んでしまう。



あなたにもそう、想ってもらいたい―――と。



自嘲気味には笑った。
いつの間にこんな考えを持つようになってしまったのだろう。
スラムで必死で生きてきた頃の自分とは大違い。
情けなくて、見苦しくて、弱くなってしまったかもしれないけれど。

でも、こんな自分も、結構好き。



「・・・・・・リザさん」
ようやくこちらを向いたの顔が、以前と変わらず美少女のようなのに、それでいて違って見えてリザは少し動揺する。
可愛らしい顔立ちは、今は少女ではなく少年のそれになっていた。
――――――が柔らかく、とても奇麗に笑って。
リザは息を呑む。

「・・・心配かけて、ごめんなさい」



――――――もう大丈夫だと思った。
今、目の前にいる少年はもう大丈夫。
たった数日前のことなのに、最後に会ったときに受けた儚い印象が払拭されている。
もう、大丈夫。この子はいなくなることはない。
もう、大丈夫。
を変えることが出来たのが自分じゃないことが少し悔しいけれど、それでも喜びがリザの胸を満たした。
そしてそのまま手を伸ばす。
触れた腕が温かくて、目頭が熱くなるのを感じた。
抱きしめて、顔を寄せて。



「お帰りなさい」



あの時出来なかったキスを、今度はリザから贈った。



「『上手く行く』に1000点!」
テーブルの上にあるクッキーをつまみながらエドが言う。
コーヒーを飲んでいたロイは、続いてそれに乗った。
「甘いな、鋼の。『現状維持』に1200点だ」
「うーん・・・・・・じゃあ僕は、『友達になる』に1000点で」
「・・・・・・アルフォンス君、君は意外にシビアな見方をする」
ある意味生殺し状態を宣言したアルに、エドとロイが唇を引きつらせる。
三人のやり取りを眺めていたヒューズは声を上げて笑った。
「まだまだ青いなぁ。これだから独身の奴らは」
ムッとするロイ(29歳)にニヤリと笑って、そしてそのままハッキリと言い切る。

「『いい感じになるが恋人同士にはまだまだ』ってトコロだろ、あいつらは」



温かい場所。
やっと、手に入れた。





2003年11月20日