ペラペラと書類の束をめくりながら、ヒューズは目を通す。
最後までめくり終わって、またもう一度最初に戻って。
二回ほど読み返した後、まるで狙い澄ましたかのように電話のベルがなった。
「はい、こちら調査部」
『東方司令部のマスタング大佐から、ヒューズ中佐にお電話です』
「繋いでくれ」
ジャストタイミング、と呟いている間に交換士の声が聞きなれたものに変わって。
「よぉ、ロイ」
書類を机の上に放り出して、見えない相手に笑いかけた。
真っ白い紙に、印刷された文字が見える。
『・に関する報告書』
幕間
部下に入れてもらったコーヒーを飲みながら、ヒューズはやる気なさそうに書類を読み上げる。
「・。二つ名を『万物の錬金術師』。年は15。身長は―――」
『そんなことはどうでもいい』
冷たい声に一蹴されて、思わず溜息をついた。
「何だよ冷てぇなぁ。こっちはたった二日で必死になって集めたってのによ」
『それより他には何かなかったのか』
「例えば?」
『の求めている“大切なモノ”が何かとか』
「あー・・・・・・」
ガリガリと頭を掻いて、ヒューズが受話器のこっちで溜息をつく。
それが聞こえたのか、向こうから怪訝な雰囲気が伝わってきて。
『ヒューズ?』
「・・・・・・おい、ロイ。おまえさんさ」
どうしようもないと思いながら、口を開いた。
「あんまり・には関わらない方がいいぞ」
たった二日とはいえ、セントラルに属する軍の調査部。
並大抵のことなら調べられるし、その自負もある。
けれど『・』に関する情報は対して集まらなかった。
隠されているのではない。
なかったのだ。
『・』に関する存在証明と証言が。
『・・・・・・何だと?』
ロイの眉を顰めた顔が自然に浮かんで、ヒューズが小さく苦笑する。
「セントラルにあるスラム街出身ってことは判った。だけどそれだけだ。スラムは戸籍どころか出産証明も出ないようなところだからな」
『・・・・・・スラム』
「あんな可愛いガキだ。周囲の覚えもいいだろうと思ったが、実際に人の出入りが多すぎて目撃証言は得られなかった。スラム出身ってのも『たぶんいたような気がする』ってくらいの証言だしな。まぁ無理もないだろ」
手元の書類をめくりながら話す。
美少女のような顔をしたの写真と、空欄の多い書類とがクリップで留められている。
『スラムの子供は客引きをすると言われているが、そっちはどうだ?』
「が今15だろ? エドと出会ったのが一年前っていうし、それ以前に身売りしてたとしたら13歳。そんなガキを買うような奴がそう簡単に見つかるかってんだ」
『いないわけではないんだな?』
「探せばな。だけど俺は嫌だぜ。おまえが当たってくれ」
写真に映っている子供の顔を見て、ヒューズは微妙に眉を顰めた。
・・・・・・喜ばしくない過去を暴くのは好きじゃない。
それも相手がこんな子供なら尚更。
「なぁロイ」
少女のような顔を指で撫でて、ヒューズが呟く。
「―――言わないってことは言いたくないってことだ。無理に聞いてやるなよ」
その言葉に受話器は黙ったままだった。
黙りこくってしまった相手にヒューズは苦笑する。
軍人として、錬金術師として優秀なロイは、こういうところでとても不器用だ。
だけど、だからこそ親友をやっている。
「その代わりと取り引きをしたって奴には目星がついたぜ」
『・・・・・・誰だ』
「おまえ以上ってことは少なくとも佐官じゃない。将軍階級の奴だとしても、国家機密を持ち出せるなら中将以下じゃなく大将か、それ以上の元帥。もしくは」
『――――――大総統、か』
「ご名答」
バサッと音を立てて書類を放る。
サッと周囲に視線を走らせて誰もこの会話を聞いていないことを確認して。
「が大総統に繋がっている人間だとしたら、おまえの野望の邪魔になるぞ。気をつけろ」
『あぁ、判っている』
「それでもアイツに手を貸すっていうのか?」
見返りがなくては指一本動かさないようなロイが、今はのために動こうとしている。
受話器の向こうで笑みを含んだ声がした。
『彼がいないと、私の副官が淋しそうでね』
ロイの向こうで第三者の声がする。
珍しいこともあるもんだな、などとヒューズは考えながら、けれどその喜ばしい変化に嬉しそうに笑った。
「じゃあロイ、おまえ明日にでもセントラルまで出張して来い」
『何で私が』
「ちゃんとホークアイ中尉も連れてこいよ?」
察したらしい相手にもう一度笑って。
「とエドたちは俺が責任持って我が家に引きとめておいてやる」
昨日から自宅で預かっている三人の子供。
そのうちのやけに可愛らしくて生意気な子供を思い出す。
うん、いい傾向だなんて考えながら受話器を置いて。
「明日が楽しみだな?」
どうせなら無表情な顔よりも、笑っている顔の方が見たいのだから。
2003年11月16日