『万物の錬金術師』――――――人々は、彼をそう呼ぶ。
15歳にして国家錬金術師の資格を取り、与えられた仕事の成功率はかなりのもの。
子供ながらにも優秀な軍の狗だと、上層部の間で彼の評価は高かった。
本人は普通の。
もしかしたら普通じゃない、でも傍から見ればいたって普通の。
彼はそんな少年だった。
・は自分とは違う細い手に、ゆっくりと唇を寄せた。
跪いて口付けて
銃を握る手。多くの人々を殺してきた手。
だから、何?
「・・・・・・リザさんの手は、すごく奇麗だ」
言葉を発するたびに手の甲にの唇が触れる。
リザ・ホークアイは一度だけ瞬きをして。
が続ける。
「俺、リザさんのこと好きだよ。すごく好き」
「・・・・・・結婚を申し込んでくれたくらいに?」
「うん。今でも本気だから。俺はリザさんと結婚したいよ」
もう一度手の甲に口付けて、それはまるで誓いのキスのように。
指の先、一本一本に願うように。
「・・・・・・早くイイ男になれたらね」
はそう呟いて笑った。
リザは知っている。『国家錬金術師』というものを。
少なくとも一般人よりかは知っていると自負している。
それは知識としての有無ではなく、存在としての苦悩や痛み。
そいうことを含めて、彼女は『国家錬金術師』を知っている。
そして思うのだ。
自分の上司である焔の錬金術師も。
まるで弟のような存在である鋼の錬金術師も。
今目の前にいて、自分と結婚したいという万物の錬金術師も。
彼らは皆、心に深い傷を負っている。
だからこそ、『国家錬金術師』を名乗るのだ。
求めているものがあるから、こそ。
何を探しているのかは知らないが、エルリック兄弟と共に旅をしているは、こうしてリザと過ごせる時間がほとんどない。
そして彼はリザと二人きりになろうとはしない。
は自分はリザを好きだが、リザが自分を『そういう意味で』好きではないことを知っている。
だからだろうか、余計に彼は彼女と二人きりになろうとはしなかった。
会うときは誰か、他の人のいる場所で。
たとえばそれが東方司令部だったり、人気のあるレストランだったり。
はリザのことが好きだけれど、決して求めはしなかった。
リザの愛情を。
ただ、本当にときどき、こうして手に触れることが出来るだけで。
それだけで十分だから、といつの日か言ったに、リザは眉を顰めた過去がある。
子供なのに、と思ったのは記憶に新しい。
だからこそリザは、が自分の手に触れたときだけは、彼と二人きりになろうと決めていた。
少しでも、子供らしくいて欲しいから。
手に、手で触れて。壊れ物を扱うかのようにそっと頬を寄せて。
そしてときどき口付ける。
は飽きることなくそれを繰り返し、その度に小さく笑みを浮かべる。
その度にリザが小さく眉を顰める。
「・・・・・・ごめん、リザさん」
人差し指に口付けて、が言った。
「ごめん、なさい」
少女のような横顔で、泣きそうに笑いながら。
――――――少年は『国家錬金術師』だ。
2003年10月31日