リザが書類を手に執務室へと入ってくると、ちょうど東部へと来ていたエルリック兄弟+がロイやハボック少尉と楽しそうに会話をしていた。
そんな中、彼女の存在に気づいたがニコニコと満面の笑みを浮かべながら、輪を離れて駆け寄ってくる。
その様子にリザは思わずブラックハヤテ号を思い出してしまって。
美少女にしか見えない顔で笑いながら、が話しかけてきた。
「リザさん、リザさん。今日はお仕事が終わった後はお暇ですか? もしよければ俺と一緒に食事とかいかがですか?」
「そうね・・・・・・」
向こうのソファーから何やら楽しそうにこちらを見てくる上司たちを視界に入れて、リザは今日の予定を思い返す。
「そうね、じゃあお付き合いしようかしら」
「・・・っ! じゃあ俺、美味しいお店に予約入れときます!」
「えぇ。楽しみにしてるわ」
頬を染めて嬉しそうに笑うを可愛いと思いながら目を細めて。
本日、とリザはこうしてデートの約束をしたのだった。





迷宮ロマンス





一方的な想いではあるが、とりあえずデートの約束を取りつけることの出来たは、その日の午後をご機嫌で過ごした。
旅の仲間であるエドとアルに呆れられながらも、やはり気分が高ぶるのは仕方ない。
探し物を求めて各地を渡り歩いているが、こうしてリザと共に過ごせる時間というのは本当に数えられるくらいしかないのだ。
しかも年齢差からいって相手にされていないのはとて判っている。
だからこそ、こうして願いが叶ったときに酷く幸せになれる。
常人とは違う道を歩いているにとって、その時間はとても大切なものだった。



――――――しかし。



「えー、万物の錬金術師殿にホークアイ中尉から伝言を預かっております! 本日16時51分に発生した誘拐事件により勤務につかざるを得ず、本日のお約束は申し訳ないながらも果たすことが出来なくなってしまったとのことです!」

神様は腐っても科学者である錬金術師がお嫌いなのかもしれない。



仕事が終わる時刻であろう夕暮れに東方司令部を訪れたは、この世に神がいないということを知った。
元から神なんてものは信じていないのだけれど、これはやはり禁忌を破った自分への罰なのだろうか・・・。
そんなことを考えながら、トボトボと薄暗くなり始めた通りを引き返す。
「・・・・・・・・・誘拐犯め・・・会うことがあったら半殺しにしてやる・・・」
物騒なことを呟きながらは東方司令部を後にし、帰宅で足を進める人々の中をノロノロと歩く。
明日にはセントラルへと立つ予定だから、今日が最後のチャンスだったのに、と溜息をついて。
この落胆と怒りをどこに向けてやろうか、と考えたところではふと足を止めた。
とりあえず、今一番人気があるというレストランの予約はキャンセルしなきゃと思いながら。



「お疲れ様です!」
門番の兵士から挨拶を受けながら、ロイに従ってリザは司令部へと帰還した。
時刻はすでに10時を回っている。
疲れたように身体を椅子へ投げ出して、ロイが大きく溜息をついた。
「・・・・・・完全な労働基準法違反だ。犯人も囲まれたのなら篭城などせずさっさと出てくれば良いものを」
「こちらが報告書用紙になります。コーヒーでも入れましょうか?」
「頼む。全く・・・今日は鋼のたちと夕食を食べる予定だったのに・・・・・・」
そこまで言ってハタと気づいたように、ロイは顔を上げた。
目の前にいるのはリザ・ホークアイ。彼の優秀な部下である。
「・・・・・・確か、君はと食事に行く約束をしていたのでは?」
「えぇ、その予定でした」
「しかしここにいるということは・・・・・・」
「仕事ですから」
その返答にロイはさすがに額を抑えた。
今日の昼間に可愛らしい顔をさらに輝かせて微笑んでいた少年を思い返しながら。
「・・・・・・今日の誘拐犯はさっさとセントラルへ移送した方がいいな」
に殺される前に、という言葉を付け足そうとしたときに執務室の扉が叩かれた。
現れたのは本日交代制で門番を務めていた兵士で、彼は二人に一礼するとリザの方へと向き直って敬礼したまま話し出した。
「えー、ホークアイ中尉の命に従い、万物の錬金術師殿に確かに伝言をお伝えしました!」
「そう、どうもありがとう」
「つきましては、万物の錬金術師殿からホークアイ中尉に伝言を預かっております!」
「・・・・・・伝言?」
兵士は体育会系の挨拶で返事を返すと、右手に持っていた紙袋をリザへ向かって差し出した。
たくましい男の手に、不釣合いなピンク色の紙袋。
ロイが微妙に眉を顰めるのを他所に、リザはその袋を受け取って中を開く。
「万物の錬金術師殿より、ホークアイ中尉に伝言です! 『またしばらく会うことが出来なくなるけれども、その間もどうかお元気で』とのことです!」
紙袋の中には、サーモマグカップに入れられているけれど、すでに冷めてしまっているキャラメルマキアートのコーヒー。
「・・・・・・君は何時頃にこれを?」
「はっ! 本日17時30分に一度お見えにり、その際に中尉からの伝言をお伝えしたところお帰りになられ、その後18時10分に再びお見えになられました!」
「そう」
「はっ! えー・・・・・・その後しばらく中尉のお帰りをお待ちしておりましたが、明日の出発が早いとのことで伝言と紙袋を残されてお帰りになられました!」
兵士の言葉にロイが驚いたように目を丸くした。
「待ってたのか? が?」
「はっ! そうであります!」
「一体どのくらい?」
「えー・・・・・・・・・」
口篭もる兵士の言葉を聞きながら、リザは紙袋の中へと手を差し伸べて。
そしてコーヒーと共に入っていたクッキーをそっと取り出した。
兵士の言葉が冷めてしまった熱さをコーヒーに与えるように、リザの元へと届く。
「万物の錬金術師殿は本日21時30分まで中尉のお帰りをお待ちになられていましたっ!」
時計は今、午後10時半を回ったところ。



翌日の朝一番の列車で旅立ってしまったは見ることが出来なかったが、リザは綺麗な笑みを浮かべながらコーヒーを飲み、クッキーを食べたのである。
冷めているキャラメルマキアートを温めなおさないまま。

意外と、少年の想いは報われているのかもしれない。





2003年10月30日