あっという間にセントラルへと到着して、筆記試験も精神鑑定も余裕でクリア。
残るは実技試験のみとなったところで、はしばらく待つように言い捨てられた。

隣には、ロイ・マスタングが一匹。





リノリウムの廊下





「・・・・・・。君はどうして国家錬金術師になりたいのかね?」
人気のない静かな廊下にロイの声が響き、は小さく口元を歪めて笑った。
「アンタ、俺とエドの会話を聞いてなかったの? 別に国家錬金術師になんてならなくてもいいんだけど、リザさんに不自由ない暮らしをしてもらうには金がいるしね」
「そういうことを聞いているんじゃない。君の目的を聞いているんだ」
「・・・・・・・・・大佐」
美少女の顔でまるで試すかのようには笑って。
「錬金術師の基本は、等価交換だろ?」



ロイは先程行われたの筆記試験の結果をすでに知らされていた。
点数は文句なく、今いる国家錬金術師の中でも知識においてはトップクラスに分類されるだろう。
所々に独特の表現や手法が見られるのは、おそらくが独学で錬金術について学んだからであって。
これだけ優秀な錬金術師が何故今まで噂にさえならなかったのだろうか。
それはすなわち、は誰にも知られずに錬金術を行ってきたからで。
ならばその目的は何なのか、それがロイに興味を抱かせていた。
かすかに感じるのは、数年前にエルリック兄弟を見つけたときと同じ違和感。
そう、の眼は、あのときのエドワードと同じ眼。

焔のついた眼だ。



「先に聞く? 後に聞く?」
「ならば後にしようか。等価の判断については君に任せよう」
「へぇ、女子供には優しいんだ」
はクスっと笑って考えるように首をかしげた。
くせのついた黒髪がその肩をはらはらと掠めて背中に落ちる。
「じゃあ、とりあえず聞いておこうかな」
静かな廊下に少年の声が響いて。

「アンタは、リザ・ホークアイをどう思ってんの?」



予想外の質問だったのか、目を見開いたロイには唇を横に引いて笑う。
「ちなみに偽証するなら、アンタは貴重な駒を三つ失うと考えた方がいいよ」
「・・・・・・君とエルリック兄弟か」
「そう。彼らにとっての俺の価値がアンタ以上になればいいだけの話。そして俺にはその自信がある」
「正直、気分の悪い話だな」
「俺たちは錬金術師だろ?」
科学を基礎に世界の流れを知る科学者。だからこそ物言いは時にひどく冷たいものになってしまう。
ロイは眉を顰めながら、口を開いた。
「中尉は素晴らしい部下であり軍人だ」
模範解答のような答えに、けれどは脱力して肩を落とす。
その口から発されるのは深い深いため息で。
「・・・・・・アンタ、バッカじゃないの?」
「・・・は?」
「誰が中尉について聞いたよ?俺が聞いたのは『リザ・ホークアイ』について」
その意味合いに気づいて、ロイがハッと息を呑む。
けれどはその目を覗き込んで逃がさなかった。
「嘘はつくなよ。目を見ればすぐに判る。今後の有益な関係のためにもさ」
本当に15の子供か、とロイは思った。


リザ・ホークアイ。
軍人としてではなく、一人の女性としての彼女。
それをは問うたのだ。
『ロイ・マスタングにとってリザ・ホークアイとは一体何か』を。



「・・・・・・・・・私は、軍服に身を通したからには、男女関係なく軍人だと思っている。彼女は女性である前に軍人なのだ」
「アンタにプライべートはないわけ?」
「勿論ある。だが、それ以上に果たすべき目的があるからな」
スッと向けられた視線には表情を変えずにロイを見る。
そう、国家錬金術師となる者は、少なからず何かしらの目的を持っているものなのだ。
も、ロイも、エドワードも。
「中尉は中尉であり、私の優秀な部下だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「じゃあ、もしリザ・ホークアイがアンタのことを好きだって言ったら?」
「・・・・・・そうだな、それはその時に考えよう。ただ、私は彼女が私の部下であり続ける方法を選ぶだろうがね」
「卑怯だな。でも俺もそうする」
「我々は錬金術師。・・・・・・そうだろう?」
向けられた笑みにも笑った。
それは笑顔なんてものではなく、苦い微笑に違いなかったけれど。



「さぁ、次は君の番だ」
視線を向けられて、は肩にかかっている髪を適当に背中へ流す。
ロイは逃がさないようにその仕草を見つめ、再度質問を繰り返した。
、君の目的は一体何だ?」
「等価交換じゃ答えない訳にいかないしね。・・・・・・俺には、探してる奴らがいる」
その旅の途中でエドたちとも出会ったんだ、とは付け加えて。
「ラストっていう女と、エンヴィー、グラトニーって名の男。そいつらを探してる」
「・・・・・・探し出してどうすると言うんだ?」
「別に殺したりはしないよ、たぶん」
顔色を微妙に変えたロイには軽く笑ってみせて。



「アイツらは俺の大切なモノを奪いやがった。だから取り戻すのさ」



少女めいたの横顔には、決意の色が広がっていた。





2003年10月29日