08.再会にBravi!





待ち合わせのホテルに到着すると、先に部屋に入っているはずの千種と犬が、何故かロビーで待っていた。
Perche?
聞けば、犬はむすっと鼻頭にしわを寄せる。
「俺、イタリア語嫌いらびょん」
Buonasera・・・じゃなくて、ごめん? でも俺は日系じゃないし、日本語は喋れても読み書きは出来ないんだよ。つい出ちゃうくらいは許してくれって」
「・・・・・・空き室、二つしかない。他はスイートルームだけらしい」
Ma va・・・じゃなくて、えーと、マジって言うんだっけ、こういう場合? じゃあまだ部屋取ってない?」
メガネの位置を直し、千種が頷く。その間、犬はじっとの後ろにいる凪を睨みつけていた。凪は僅かにたじろいだけれども、すぐに静かに犬を見つめ返す。
おかしな空間には肩をすくめ、受付へと向かった。ホテルマンと多少の話をしてカードキーを手に帰ってくると、犬と凪の睨みあいに千種が参加し、三竦みの状態になっている。
「ほら、部屋行くよ」
注意を促してスイートルームへ向かう間も、おかしな空間は消えることがなかった。



有名ホテルだけあって、スイートルームは豪華だった。二つのベッドルームの他、シャワーボックス付きのバスルームに、トイレが二つ。広いリビングにはバーカウンターまで設置してあり、ベランダも幅があって日光浴が出来そうだった。そんなところにどう見ても成人に満たない少年少女が泊まることに、ホテル側としては困惑もあったらしい。けれどそこはが手練手管で乗り切った。一人でやってきている彼は、こういうケースにも慣れている。冷蔵庫から缶ジュースを取り出し、はそれをテーブルへと並べた。
「それじゃ悪いけど凪さん、君の力を見せてもらえる?」
隣に腰を下した彼女に話し掛けると、先ほどから向けられ続けている犬と千種の視線が険しさを増す。その理由が分かっているからこそ、は自己紹介よりも彼女の証明を優先させた。
「俺は六道さんが契約なしで君に憑依出来ることしか聞いてない。幸いここにいる柿本さんと城島さんは六道さん直々の部下だし、君のふるまいが本物の六道さんかどうかを見極めることが出来るだろう。・・・・・・出来るよな?」
「・・・・・・当然」
「もちろんらびょん! 俺らが骸さんを間違えっかよ!」
「というわけなんで。君の証明のためにも頼むよ」
Dai. と言いかけて、は気づいたように口をつぐむ。凪は警戒ばかりの視線に身を固くしていたけれど、すぐに頷いて目を閉じる。
「・・・・・・骸様」
そう呟いて、彼女の身体が糸を失った操り人形のように崩れる。スプリングの利いたソファーに身体を預けて、一秒、二秒、三秒。次に目を開けた彼女は、彼女ではなかった。細い指が眼帯を外す。ないはずの右目が存在し、赤い眼球に描かれている数字は、六。
「・・・・・・クフフ。久しぶりですね、千種、犬」
独特の笑い声に、二人の顔が歪む。それが喜びから来るものであり、流される安堵の涙をは感心しながら眺めた。





こういうときさ、ちょっと憧れるよ。仲間ってやつ。
2007年7月28日