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06.Dai, dai, dai!





復讐者はマフィアを司る。やり過ぎた者には拘束と折檻を、法なき世界に形なき律を。
けれどどんな存在であろうと、金と無縁に生きていくことは出来ない。だからこそキノは自分が如何に世界に対して有効であるかを理解していた。案の定正攻法で面会を申し込むと、僅かな間の後で許可が下りる。もちろんそれが沈黙の間に渡したいくつかのギャンブル結果と宝くじ抽選券のおかげだということは間違いない。
石造りの冷ややかな城内を、下へ下へと降りる。めぐる螺旋にどこまで来たのか分からなくなる頃、案内人は進む先を前へと変えた。ほぼ闇に近い通路を抜けると、広いドームのような空間に出る。その中央に、六道骸はいた。投獄されている囚人というよりは、培養されている実験体。鎖で身体を巻かれ、手と足には拘束具。口には酸素を供給するためのマスクが装着され、水中を漂っている。そして何より彼の特徴であるはずの左目には、大きな管が繋がれていた。六道輪廻の源は、どうやらえぐり取られてしったらしい。人形のような骸を見上げ、キノは案内人を振り返る。
「話は可能?」
案内人は答えはせず、ただ黙って並ぶ機械のボタンを押した。重い響きの音がして、水槽の中に細かな気泡が生まれ始める。しばらくしてうっすらと骸が左目を開いた。青色のそれは、キノを見て僅かに細められる。
Pronto? 六道さん、聞こえてる?」
『・・・・・・ええ。聞こえてますよ、ギャンブルキノ』
「その呼び方止めてって言ったじゃん」
機械越しに聞こえてくる声は、やはり少し違和感がある。けれど笑いかければ目だけで微笑を返され、キノは肩をすくめた。
「やっと会えた。俺にここまで手間をかけさせたクライアントは初めてだよ」
『それは申し訳ありません。僕もまさか君がここまで来てくれるとは思っていませんでした』
「これでもプロだからね。ギャンブル星に相応しくあるべく、一方的な契約破棄はしないようにしてるんだ」
『そうですか。その制服、とてもよくお似合いですよ』
Grazie. 学生生活も一週間だけど楽しかったよ」
『それは良かった』
「さて、時間もないしそろそろ本題に入ろうか」
キノは制服のポケットに手を入れ、笑みを消して骸を見上げる。
「契約は破棄? 延長? それとも変更?」
骸の左目がちらりと案内人を掠める。キノは大丈夫だというように軽く首を振った。先ほど螺旋階段を下っている際に、案内人には余分に金を握らせてある。監視カメラなどの細工も依頼済みだ。骸はその意を汲み取り、まなざしをキノへ戻す。
『あなたが許して下さるのなら、変更を。もちろん報酬は新たに支払わせて頂きます』
Mi raccomando?
Per favore
Vabbe'. 乗りかかった船だしね、とりあえず一区切り着くまで付き合おう」
『どうもありがとうございます』
はぁ、と呆れ交じり溜息を吐き出し、キノは話を続ける。
「手下ABの保護、安全場所への隔離。そういや伝言預かってた。『いつまでも待ってる』って」
『・・・・・・「必ず戻る。それまでおまえたちは逃げ続けなさい」と』
「『時期を見て自力で抜け出すから助けに来るな』まで入れてもらえる? でないと無茶を承知で来そうだし」
『ええ、ではそれも追加で』
告げる骸の表情は、心なしか柔らかなものだった。
『それとお手数ですが、彼らを連れて日本へ渡って頂けますか?』
意外な言葉に、キノは目を瞬かせる。
Giappone? また?」
『ええ、申し訳ないのですが、拾ってほしい娘がいるのです』
骸が笑う。すでにない筈の右目が赤く光り、彼の異能を呼び醒ます。あぁ、とキノは声を漏らした。

『凪、といいます。これからの交信は、その娘を介して行いましょう』





というわけで、また日本に逆戻り。
2007年7月20日