03. 星の王子様
骸たち黒曜中との一戦を終えた綱吉たちは、ボンゴレ医療班に手当された後、並盛病院へと搬送された。一番重傷だったのは雲雀で、肋骨を数本折りながらも気力で戦ったのが仇となったのは間違いなかった。逆に一番軽傷なのは綱吉で、超死ぬ気モードの反動である二週間筋肉痛以外は、打ち身と擦り傷だけだった。
疲労のため丸一日眠り続け、目覚めて三日は筋肉痛で微塵も動けず、さらに三日で歩けるほどに回復した綱吉は覚悟を決めた。
「ひ、雲雀さんに謝りに行かなきゃ・・・!」
震える声で自分に言い聞かすように宣言し、痛みを訴える体をぎしぎしと動かし、綱吉は壁伝いに雲雀の病室へと向かう。ちなみに院長にさえ頭を下げさせる彼は、一人部屋を悠々と使っているらしい。何でこんな遠いんだよ、と叫ぶ綱吉の横をリボーンがぴょこぴょこと歩く。
「別に謝ることなんかねーぞ。雲雀はツナのファミリーだからな」
「違うし! っていうか、骸の目的は俺だったんだから、巻き込まれた雲雀さんに謝るのは当然だろ!」
「ボスは部下を使ってナンボだぞ」
「だから俺はマフィアのボスなんかにならないってば!」
叫んだら、身体の痛みに悲鳴を上げそうになってしまった。けれど、壁から発された気配にざわりと全身が粟立つ。綱吉が顔色を蒼白に変えるのと、リボーンが銃を構えて目の前の病室のドアを跳ね開けるのは同時だった。
「Ciao bambino!」
気軽い、蜂蜜のような甘さを含んだ声が流れる。
綱吉が覗き込んだ病室の中には、全開の窓枠に腰かけている外国人の少年がいた。彼を見た綱吉の第一印象は、華やかな人だなぁ、というものだった。きらきらしている少し長めの髪は柔らかいウェーブを描いている。鼻筋がすっと通っていて、唇に浮かんでいる笑みがよく似合う。グレーの瞳はまつげが長くて、どう見ても美少年と呼ぶのに相応しい容姿だった。それも獄寺や山本のように男らしいのでも、雲雀のように端正なのでもない、一言で言えば派手な、ディーノと同じような部類の造形だった。
綱吉がぽかんと大口を開いていると、その視線を受けた少年がひらりと手を振る。
「Ciao Bello! 君、もしかして彼の友達?」
彼、と指さされたのは少年と綱吉たちの間にあるベッドに横たわっている雲雀で、その鋭すぎる眼差しから、やっぱり先ほどの殺気は雲雀さんのものだったんだ、と綱吉は思う。
「おまえ、『ギャンブル』だな」
「はぁ!?」
リボーンの言葉に綱吉が思わずツッコミを入れる。けれど自身も嫌そうに顔を歪め、その言葉を否定した。
「その呼び方、やめてくれない? 好きじゃないんだよなぁ。どう考えたって悪いイメージに取られるじゃん。ランキングフゥ太ならまだしもさ」
「え!? フゥ太!?」
「こいつはフゥ太の同類だぞ。ギャンブル星の王子様だ」
「ええええっ!?」
驚きの声を上げ、綱吉はリボーンと少年を見比べる。どう見てもは自分と同じか、少し年上くらいにしか見えない。それでもフゥ太と同類ということは、少なからずマフィアと関わりがあるのだろう。もしかしてこの人も追われてるのかな、と出会った頃のフゥ太を思い出し、綱吉は考えた。
「ギャンブル星と交信して、この世のどんな賭け事でも勝敗を当てることの出来る奴だな。マフィアの中じゃ『金のなる木』とか『無尽蔵資金源』とか言われて、どこのファミリーからも引っ張りだこだ」
「あ、その呼び方の方がマシ」
「だがその格好・・・・・・今回は骸と組んでいたのか?」
はっとして綱吉は少年―――を振り向いたが、ぶわっと再度膨れ上がった殺気に小さく悲鳴を上げる。ベッドの上の雲雀は重傷患者だけあって動けないらしいが、視線の鋭さだけでも十分に相手を射殺すことが出来そうだ。けれど黒曜中の癖のある学ランの襟を引っ張り、は楽しそうに笑みを浮かべる。
「正確には契約を交わして、報酬の一部を先払いしてもらってただけ。いざ頼まれてた金を用意してきたら、何かヴィンディチェに連れてかれるとこに遭遇しちゃってさ。どうしたもんかなーと、とりあえず情報収集をしてる最中」
「その割にはここに来るまで時間がかかったな?」
「転入した黒曜中が楽しくてさぁ。調子乗ってサッカー部に仮入部してたら、いつの間にか一週間経ってた」
「サ、サッカー部・・・・・・」
「で、さすがにそろそろマズイかなーと思って、とりあえず六道さんの仲間っぽい奴の連れてた鳥が、この彼の傍にいるのを知ったから来てみたんだけど」
窓枠に腰かけたまま、はちらりと雲雀を見下ろす。にこっと笑いかけてみるけれども、返ってくるのは威力を増した視線だけだ。取り繕う島もないらしい敵対心に、綱吉の方がハラハラしてくる。
「・・・・・・というわけで、話も聞けずに今に到るよ。君もさ、彼の知り合い且つ入院中なら、六道さんが何してどうなって今どこにいるのか知ってるだろ? 教えてくれない? あ、もちろんお礼はするよ。明日の万馬券でどう?」
にこやかにそう言われて、やはりもマフィアなのだと綱吉は妙に納得してしまった。じりじりと視線を注ぎ続けている雲雀に対し、は捕らえている丸い鳥の頭を指の間から覗かせ、ピヨピヨなどと鳴き真似をしたりしている。雲雀相手にそんなことをするなんて、マフィアはやっぱり恐ろしい。
「骸はツナに返り打ちにあって、ヴィンディチェに連れてかれたぞ」
「あーやっぱり? じゃあ俺もイタリアに戻るしかないなぁ。ヴィンディチェの牢獄は厳しそうだけど、報酬もらいっぱなしで返さないってのは俺のプロ意識に反する」
ぱっと手を放すと、鳥がパタパタと急いで雲雀の枕元へと着地する。その足にはいつ付けたのか、伝書鳩のように紙が結んであった。
「それ、明日の川崎競馬の結果。たぶん100倍くらいになると思うよ」
「え、いや、あの・・・・・・っ!」
「教えてくれてGrazie. 怪我、お大事に」
病室に背を向けて、は狭いひさしの上へと立つ。今にもひらりと飛び降りそうな彼に、リボーンが問いかけた。
「『ギャンブル』はその能力から報酬に金を望まない。おまえ、骸に何をもらった?」
「別に、大したものじゃない」
ひらりと学ランをはためかせ、は笑った。
「俺、一度学生ってのをやってみたかったんだ。それだけだよ」
Addio. と甘い声で別れを告げ、飛び降りた彼の姿が消える。綱吉が慌てて駆け寄ったけれど、もはやどこにもの姿はなかった。すごい、と何か違う感想を抱きながら胸を撫で下ろして振り返り、綱吉はびしっと固まる。ぎらぎらとした視線に間違いなくロックオンされていた。
「・・・・・・君の事情はどうでもいいけど」
ありがとうございます、なんて感謝することも出来ない。
「六道骸と、今の奴は、次に会ったら咬み殺す」
殺気満々で宣言した雲雀の枕元で、丸い鳥が「ギャンブルーギャンブルー」と鳴いた。
泣きたいのは俺だ、と綱吉は思った。
マジで万馬券になりました。
2007年7月16日