02. Dadoは投げられた
はイタリアに本拠をおいて活動している。おそらく血の大半はイタリア人のものなのだろうけれど、彼自身よくは分かっていなかった。混血を色濃く感じさせる容姿から生まれを想像するのは難しすぎたのだ。
親も身寄りもなかったけれど、生計を立てるのに心配はなかった。それどころか彼はその能力故に周囲に望まれることが多かったので、条件と待遇さえ保証されれば、どんな相手とでも取引を行った。そんな行動は自然と裏社会の人間を引き寄せ、気がつけばイタリアマフィアという巨大な界隈の中で、彼の名は広く知れ渡るようになってしまっていた。
そんな中で近づいてきたクライアントの一人が、六道骸だった。
「Incredibile・・・・・・」
ヴィンディチェも、その後来たイタリアマフィアの医療班らしい輩もすべていなくなった黒曜センターで、はボロボロのソファーに座って呆然と呟く。どうやらここが戦場だったらしく、床やら壁やらに自然には出来ない穴や亀裂がいくつも見られた。ここまで戦いが激しかった上に、捕まったのは骸。どう見ても彼の敗北は明らかで、その事実をは信じられずにはいられない。
「えー・・・・・・えー・・・・・・? だって、六道さんだぜ? あの六道輪廻使用者の。なのに負ける? えー負けないだろ、普通」
驚いているというよりは、むしろ唖然としている。うわぁ、と金茶の髪をかき上げて、は穴だらけの天井を見上げた。
彼は基本的に、クライアントの事情を聞いたりしない。提示されたものを用意し、出した条件を叶えてもらう。敵味方だけでなく明日も分からない生き方をしているだけに、不必要な詮索は互いの破滅に繋がることを知っているのだ。
だからは、今回も骸が何を目的で動いているのか知らなかった。ただ、取引の際に彼の六道輪廻のことだけは会話の種に聞いたのだ。だけど、それだけ。は骸が戦った相手の名さえ知らない。
「Oh, dio! こうなるならちょっとは聞いとくべきだったなぁ。契約延長を求められて揉めることはよくあるけど、支払いの時点で相手が消えるのは初めてだ」
溜息を吐き出してソファーにもたれかかると、ぎしりと床が鈍い音を立てる。崩れた個所のある天井の向こうには空も見えるし、どうやら泊まるには環境が悪すぎるらしい。
「・・・・・・ホテルは豪華に、スイートにしようかな」
立ち上がり、ズボンを叩く。ス二ーカーで一歩踏み出すと、埃が白く裾にまとわりついた。肩をすくめ、はぶら下げている携帯電話を引っ張る。履歴の一番最初、六道骸の項を選択し、機能選択にカーソルを当てる。いくつかの作業の末、着信拒否が設定された。これで万一携帯が無事で拾った第三者がいたとしても、居場所を特定されることはない。
「まぁ、報酬は先払いでもらっちゃってるし?」
黒曜中の制服をはためかせ、は歩き出す。
「とりあえず契約は続行。ご希望の活動資金をお届けに参りますよ、六道さん」
あー俺って優しい。自画自賛する彼は軽い足取りで黒曜センターを後にする。ホテルのスイートルームは、当然経費で差し引かせてもらおうと考えながら。
デフォルトネームはカジノゲームのひとつ、「キノ」より。
2007年7月14日