01. 遅すぎた到着





バスから降り、は思い切りぐっと腕を伸ばした。小さな椅子に収め続けていたせいで、身体の節々がバキバキと音を立てる。それに顔を歪めると、彼はぐるぐると肩を回した。
Che palle! あーやっぱりビジネスじゃなくてファーストクラスにするべきだったなぁ。俺、成長期なのに身体バキバキ」
筋を伸ばすように、首を左右へと押し曲げる。その場で屈伸をして、腰を反らせる。そこまでしてようやく身体中の違和感が消えると、は周囲を見回した。道路に沿って並んでいるのは形も色も様々な住宅と思われる建物ばかりで、祖国との違い様に思わず感嘆の溜息を吐き出してしまう。
「すごいな、Giappone. あぁでもそっか、湿気の多い国だし、建物は100年も持たないんだっけ? なるほどね。そりゃあ景観も揃えられないわけだ」
興味深そうに家を見ていたけれども、バス停のすぐ近くに看板のようなものを見つけ、はそちらへと近づいた。ところどころペンキの剥げているそれはどうやら地図らしく、眉をしかめてそれを見つめる。
Allora・・・・・・ば、す・・・? Autobus? これが今いるところ?」
確認するように文字を一つずつ指でなぞり、読み解いていく。は日本語を話すことは出来るけれども、読み書きはほとんど不可能に近かった。生まれてからずっとイタリアで暮らしていた彼にとって、それは仕方がないのだろう。
「・・・・・・たぶん、こっち?」
ひらがなだけをどうにか読み取り、目的地までの道のりを頭に叩き込む。そしてのんびりとアスファルトを歩き始めた。
明らかに異国の血を感じさせる容姿の彼に、時折すれ違う相手からいぶかしげな視線が向けられる。試しに目の合った女性に微笑んでみると、マダムと思われる年齢だろう相手はまるで少女のように頬を染めたので、まぁいいや、なんては思った。
石畳でない道は味気ないけれど歩きやすい。気に入りのスニーカーに物を言わせて、踏みしめるように先を進む。
「あぁ、そうだ。連絡入れなきゃ」
思い出したように呟き、ジャケットの内側から携帯電話を引っ張り出す。これはにとってコンタクトを取ることの出来る唯一の道具なので、大事にロングストラップでいつも首からぶら下げていた。人形やマスコットはついていない。
薄めの、海外でも使用できるオールラウンダーなそれを開き、履歴から相手の登録情報を引き出す。通話ボタンを押して耳に当ててみるけれど、しばらく経っても繋がらず、機械音だけが無機質に続いた。
「んー?」
首を傾げ、一度切ってからもう一度かけ直す。けれどもやはり繋がらない。再度首を傾げたの隣を、一台のトラックが駆け抜けていく。
「・・・・・・ん?」
黒いその車体を眺めながら、はおかしなことに気がついた。そのトラックは、ナンバープレートが黒い何かで覆われていたのだ。隠している。その異質さが示す犯罪性に、の勘が否応なしに働く。
追いかけるように駆け出しながら、まだ繋がらない携帯電話に舌打ちをした。けれどそれも、ブツッという途切れるような音に遮られる。もはやコール音さえしなくなった相手に、は目を見開いた。
「切った・・・っていうか、壊れた? Ma dai!
点のように小さく先を行くトラックは、が先ほど覚えた道を間違いなく辿っている。Oh, dio. と呟き、は本格的に走り出した。格好つけて皮靴を履かなくて良かったと思いながら、ショートカットで角を曲がる。
だんだんと住宅も少なくなり、その代わりに木々が増えてきた。うっそうとした気配が濃くなり、放置されて久しい壊れかけの建物がちらちらと葉の影に見え始める。
門だったと思われる場所をトラックが通過していく。はそれよりも手前の位置で勢いをつけてフェンスを乗り越え、林の中を直線距離で建物へ向かった。
けれどやはり、トラックの方が早かった。

Incredibile・・・・・・!

息を切らしてたどり着いた先、全身をマントで覆った影がじゃらりと太い鎖を鳴らす。復讐者【ヴィンディチェ】という存在である彼らが拘束しているのは、三人の少年。他にも制服を着ている少女や、帽子を被っている男、ひょろ長い双子などが次々と鎖で縛られ、トラックへ放り込まれていく。その一番最後の少年に、は用があったのだ。けれど多勢に無勢、ヴィンディチェ相手に奪還できると思うほど楽天家なわけではない。
来たという痕跡すら残さずに去っていくトラックを眺め、は途方に暮れた。

「・・・・・・六道さぁん、これってやっぱ契約破棄でいいっすかぁ・・・?」

呟いた彼の名は、
今回の並盛狩りとボンゴレ10代目強襲計画において、六道骸が招いた、彼のビジネスパートナーだった。





イタリア語のところにカーソルを当てると訳が出ます。あんまり信じないで下さい・・・。
2007年7月14日