跡部がアホベになってから、俺は部室には絶対に近づかないことを誓った。
自分からトラブルに首を突っ込む気はない。いつもの跡部ならまだしもアホベじゃ余計にだ。
アイツもな・・・・・・テニスの腕だけなら氷帝の部長に相応しいのによ。
何で性格があぁなんだ? っていうか何で『アフロディーテ』とやらに会った途端アホベになったんだ?
いくら美人だろうが理想のタイプだろうが、結局は男だろうに。
ったく激ダサだぜ、アイツ。
とりあえず落ち着くまではしばらくアイツには近づかないことにしよう。
俺は、そう決めていたのに。
「ふざけんな向日! てめぇいい加減に喋りやがれ!」
「ぜってーヤダね! 誰がアホベごときに教えるもんか!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の平穏なテニス生活を返してくれ。
花泥棒
俺はただ、今日も部活に行ってテニスをしようと思っただけだ。
部活のある日は仕方なく部室に行くが、出来る限りさっさと着替えてコートに出ることにしている。
こんなときだけは正レギュラー専用の部室ってことを恨むぜ・・・・・・。
何でアホベなんかと一緒にいなくちゃいけないんだ。激ダサだぜ、まったく。
そんなことを考えながら、今日もウンザリしかけて部室に行ったら。
「だから俺は絶対に言わないね! 跡部の運命のヤツなんだろ、自分で見つけろよこのアホベ!」
「他人を脅して吐かせるっていうのも十分に自力のうちだ! てめぇこそいい加減に教えろ!」
「誰が教えるかバーカ!」
「〜〜〜〜〜〜!!」
向日が、この部活では結構マトモなヤツだと思っていた向日が、跡部の前で両腰に手を当てて高笑いしてやがる・・・。
身長的には跡部の方が20センチくらい高いはずなのに、現状はまったく違った。
跡部が、向日を、悔しそうな顔で睨んでる。
・・・・・・・・・何なんだ、こいつらは・・・・・・。
脱力して回れ右をしかけた俺に気づいたのか、先に部室に来ていたらしい長太郎が近づいてきた。
「こんにちは、宍戸さん」
爽やかな笑顔もどこか疲れて見えるのは気のせいだよな・・・?
だが、俺はその原因を尋ねずにはいられなかった。
「・・・・・・長太郎。何なんだよ、こいつらは」
勝者向日と敗者跡部を示して聞けば、長太郎は困ったように首をかしげて。
「いえ、俺にも良く分からないんですけど、何だか向日先輩が例の『アフロディーテ』を見つけたみたいで」
「・・・・・・で、まだ見つけてない跡部が教えろってせがんでんのか?」
「はい」
「アホだな」
「アホベですから」
サラッと答えてきた長太郎を前に、コイツもちょっとやばくなってきてると俺は思った。
アホベの力ってのはそんなに影響すんのかよ・・・・・・。
目の前の向日はアホとはちょっと違うが、完璧にいつもと違ってきてるしな。
「大体これだけ犯罪犯して探してるってのに見つけられないアホベがアホなんだよ!」
「〜〜〜それを百歩譲って認めたとしても何でテメェが先にアイツを見つけてんだよ!」
「そーんなーのウンメーなんじゃなーいのー?」
「その馬鹿にした態度を止めやがれ!」
「俺はバカにしてんじゃねーよ。アホにしてんの」
「〜〜〜〜〜ふざけんな! テメェ俺を敵に回したいのか!?」
コメントさえしたくなくてヤツラの会話を流してたら、跡部がついに権力行使に出やがった。
向日のヤツやりすぎたな、とか思ったのに。
「――――――ハッ」
今日のヤツは、マジで違った。
「確かに跡部グループの力はすごいだろうけどな、MECをなめんじゃねーぞ!」
国内規模じゃ跡部には敵わないだろうけど、海外市場ならうちだって負けないんだからな!
一人で経済を牛耳切れるとか甘いこと思ってんじゃねーよ!
悔しそうに唇を噛み締めて、けれど黙り込んだ跡部。
完璧に、向日の勝ちだった。
「し、宍戸さん・・・・・・MECって」
長太郎がかすかに青褪めた顔で聞いてくる。あぁ、そういやコイツは知らなかったか。
「Mukahi Electric Companyの略だ。そのままの通り向日の親の会社だな」
「えっ・・・MECって電子機器系じゃ最大手の企業じゃないですか! 向日先輩ってそこのグループの息子なんですか!?」
「まぁな」
学校じゃ「父親の職業は電気屋」って言ってっから知ってるヤツは少ないけど、向日は筋金入りの金持ちだ。
確かに跡部の家とも張れるかもしれないけどな・・・・・・・。
だからって、こんなクダラナイことに互いの家の権力を使うなよ。ったく本気でアホか・・・。
あぁでもアホベなんだよな。じゃあアホでも当然か。そうか、そうだよな。
「し、しっかりして下さい、宍戸さん!」
「何だよ、長太郎。俺はいつもどおり絶好調だぜ。跡部がアホベなだけだろ」
「『絶好調』とか言ってるあたりですでにいつもの宍戸さんじゃないです〜!」
「ははは、アホだな、長太郎は」
「宍戸さん・・・・・・っ!」
何だか長太郎が泣き始めた。ったく男がそう簡単に泣いてんじゃねーよ。
それだからおまえはノーコンなんだ。
「そんなの関係ないですー・・・・・・」
あ、今気づいたけどジローも部室に来てたんだな。
向日と跡部のアホっぷりばっか目に付いて見えなかったぜ。
つーか俺もジローと一緒に寝とくかな・・・・・・。
「・・・・・・・・・何しとるん、自分ら。めっちゃ怪しいで」
「忍足先輩っ!」
部室のドアを開けて忍足が入ってきた。
あぁそういやおまえはいなかったな。さっぱり気がつかなかったぜ。
ったく俺はよぉ、テニスがやりたくて氷帝に入ったのに何でこんなアホ集団に属さなきゃいけねぇんだ?
これもすべてはアホベの所為だ。チッ! テニスと顔だけで生きていけると思ってんじゃねぇか? アーン?
「お、忍足先輩っ! 忍足先輩っ! 宍戸さんが―――・・・・・・っ!」
号泣してんじゃねーよ、長太郎。アーン?
「・・・・・・みなまで言わんでえぇ、鳳。それより榊監督はおらへんの?」
「か、かんとくは、かんとくは」
「・・・・・・・・・・・・おらんのやな」
忍足は子供みたいに泣き続ける長太郎の頭を、溜息をつきながら撫でた。
ガキと母親か、テメェらは。アーン?
14で子持ちかよ。まぁでもテメェなら在り得ないとも言い切れないけどなぁ?
「なぁ、監督おらへんって」
忍足が自分の後ろを振り向いて言った。
テメェはそのセミロンゲの後ろにも顔があんのか、とか思ったとき、忍足の後ろに何かいるのが見えた。
そこには、前髪が長くてやけに存在感のない男が立っていた。
2004年3月22日