跡部がアホベになった。
なんかスッゲー美人な奴を探してるみたいだけど、でもそれって男だろ?
だったら探したって無意味なんじゃねーの?
跡部はアホベ状態だから侑士にそう聞いてみた。
そしたら侑士はどっか遠くを見た後でポツンと呟いた。
「・・・・・・美人の程度によるんやろなぁ・・・」
その後に続いた『俺も絶世の美人なら男でも大歓迎や』って言葉は聴かなかったことにする。
そんなんだから一部の女子に「跡部君と忍足君ってアヤシイよねー!」とか言われんだよ。
あーあぁ。何で俺の周囲にまともな人格したヤツっていないんだ?
花泥棒
跡部がアホベになって部室で犯罪者になってから一週間が経った。
その間に跡部は見事なくらいに暗くなってヤツレていった。今じゃもう目の下のクマなんて見慣れたし。
俺からしてみれば「跡部、おまえ何日徹夜してんだよ」って感じだけど、女子から見れば「何か悩みがあるのね。憂い顔の跡部君も素敵!」ってことになるらしい。
ぜってー跡部のヤツレた原因を知ったらそんなこと言えなくなるって!
だって跡部は例のあの『あふろでぃーて』とかいうのを探してるんだぜ?
それで見つからなくて寝不足になってる。これをバカと言わずに何て言うんだよ。
「跡部のバーカ」
ふらふらしながら生徒名簿を見てる跡部に言ってみた。でも聞こえてないみてー。
ちょうどいいや。もっと言っとこ。
「跡部のカーバ」
「アホベー」
「跡部のナルシストー」
「跡部のカボチャー」
「跡部のヘンターイ」
「跡部の金持ちー」
「ジロー、それちょっと違わねー?」
「えー? じゃあ跡部のトウヘンボクー」
そんな感じでしばらく悪口を言ってたけど、跡部はぜんぜん気づかなかった。同じ部室で2メートルの距離で言ってんのに。
・・・・・・・・・マジでアホベになってるって。
「何故だ・・・・・・・・・っ!」
持っていた名簿を舞台俳優みたいに落として、跡部は天井を見上げてうなだれる。
「ジロー、俺にもポッキーちょーだい」
「向日ならいいよー。アホベにはあげたくないけど」
ジローからイチゴ味のポッキーを一本もらった。甘いけどスッパイ。
侑士がなんか気のどくそうな顔で跡部を見て、でもって俺たちを見る。
「二人とも、一応聞いたってや。跡部かてアレが素なんやから」
「いいじゃん。跡部なんか放っといてもしゃべるんだから」
「ジロー、自分鬼や・・・・・・」
侑士はそう言ってるけど、でも俺もそう思う。
だからポッキーを食ってたら、跡部は苦悩しているみたいに首を横に振った。
仕草とかはいちいち絵になるんだけど、何でこんなに変なヤツに見えるんだ?
「アホベだからじゃないのー?」
あぁ、そっか。
「何故だ・・・何故いないんだ・・・っ! この氷帝の全名簿を何度チェックしてもアイツの存在が見つからない・・・・・・っ!」
「せやけど、ソイツは眼鏡かけとるんやろ?」
侑士はいちいち跡部につきあってやってる。
でも絶対に親切じゃねーと思う。だって眼鏡が光ってるし。
「たとえ眼鏡をかけていようがかけていなかろうが、アイツなら分かる。そう、たとえ百万光年先の宇宙の果てから見たとしても俺には分かる! 何故なら俺はアイツの美の下僕だからだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、跡部が下僕発言したで・・・!?」
「相手がゲボクなんじゃなくて、自分がゲボクって言ったし。うっわーご主人様がメイワクしそー」
「・・・・・・ジロー・・・」
だから何で侑士はビミョーな顔をするんだよ。俺はジローと同じ意見なのに。
跡部がゲボクって、それってスッゲーありえないと思う。第一俺なら跡部みたいなゲボクは欲しくない。
「っていうか、宇宙の果てからでも見つけられるんなら、何で同じ学校にいるのに見つけられないんだろーねー?」
愛が足りないんじゃないのー? って、ジローが笑って言った。
そうしたら跡部は両膝をついてガックリとうなだれた。
愛はどうでもいいけど、跡部の注意力が足りないんじゃないかと俺は思う。
っていうかアホベだし。むしろ見つけられない方が相手のヤツの為だとも思うし。
跡部の美意識が変なんだか、相手がマジで美人なんだか知らねーけど、どっちも災難だと思う。
うわー・・・・・・カワイソウ。特に跡部がいろんな意味でカワイソウ。でもいっか、アホベだし。
「何でうちのミニモニはこうなんや・・・・・・っ!」
誰がチビだよ。つーか侑士、ミニモニってもう古いんじゃねーの?
今日も『あふろでぃーて』が見つからなくて凹んでるアホベと、それを眼鏡を光らせながらなぐさめてる侑士。
でもって俺とジローと四人で部室を出て帰る。
今日は宍戸と鳳はいない。つーか跡部がアホベになってからあいつらは部室に近寄らなくなった。
スゲーいい判断だと思う。俺もそうしよっかなー。
って考えてたら、目の前に急に人間が現れた。つーか、マジで。
校門までの道に人は一人もいなかったはずなのに、突然いた。
普通に、俺たちの10メートルくらい前を歩いてる。ホントに、普通に。
「・・・・・・・・・なぁ、ジロー。アイツ、どっから出てきた?」
隣を歩いてるジローに聞いてみたら、ジローは眠そうな目をこすりながら前を見て。
「んー・・・・・・・・・? なんだ、だぁ」
「?」
初めて聞いた名前。そりゃ氷帝は生徒数が多いんだから知らないヤツがいたって不思議じゃない。俺は記憶力もよくないし。
つーか跡部ウルセー。いい加減に黙れ、アホベめ。
「は、俺のおんなじクラス」
「ふーん。じゃあ跡部も一緒かー」
「うん、アホベもいっしょ」
侑士、俺はジローほど鬼じゃないからな。絶対にジローほどじゃないからな!
「は、いっつもあんな感じ」
「あんなって?」
「なんか、いるのにいないって感じ。教室でもそー。静かでめだたなくって、いっつも探さないと見つかんないし」
「目の前にいるのに探さないと見つかんないのか?」
「うん、そー」
あぁ、だからさっきも突然現れたように見えたのか。
そう納得して前を見れば、はやっぱり俺たちの前を一人で歩いてる。
そこにいるはずなのに、やけに存在感がなくて空気みたいだ。地味ってあぁいうヤツのことを言うのかもな。
アイツだったら跡部が必死になって探してるのに見つからなくても不思議じゃないよな。
まぁありえないと思うけど。
俺がそう考えてたのに、ジローは隣でアクビしながら言いやがった。
「そういえばー・・・・・・も身長170センチくらいでメガネかけてるかも・・・・・・」
寝ぼけてるジローは自分が何を言ってるのか分かってないっぽい。
後ろを歩いてる跡部と侑士も今のは聞いてなかったみたいだ。
ちょっと前を歩いてるも動揺してないから聞いてないみたいで、そのまま校門を出て左に曲がってく。
俺たちとは、別方向。
バス停で止まって、は立ってる。
その瞬間、風が吹いた。
「―――――――――――あ」
2004年3月2日