DYE
42:後三日
日付が変わった頃に、台風は温帯低気圧へと変わった。
窓を叩く雨と風が少しだけ弱まり、浦原は安心したように帽子を脱ぐ。
「そろそろ改築しないと駄目っすかねぇ・・・・・・」
一歩歩くたびに軋む廊下。
すでに時計の針は一時を回り、同居人のテッサイやウルル、ジン太は眠りについている。
浦原が起きているのは、彼の起きる時間が遅いということと。
それと今は、気にかかることがあるから。
尸魂界から目をつけられ、決断を迫られている人間。
どうしようか、と考え、浦原は乱暴に頭を掻いた。
そして感覚に入り込んだ気配に顔を上げる。
音が響くのにも構わずに先を急ぎ、サンダルをつっかける。
鍵を外して店のガラス戸を開けると、やはり想像した通りの人物がそこにはいた。
ナイロンのウィンドブレーカーは水を含みきって身体に張り付き、細い身体をより貧相に見せている。
俯いている相手に一瞬だけ眉を顰め、軒下から浦原は明るい声を出して尋ねた。
「こんばんは、サン。どうしたんすか、こんな夜中に」
雨にかき消されずに届いた声は返事をもらえず、浦原はわざとらしく肩を竦める。
少し外に出ただけで肌寒い。こんな中、はどのくらい雨に降られていたのか。
とりあえず中へ、と浦原が言うよりも先に、小さな呟きが聞こえた。
「・・・・・・・・・・・・てくれないか・・・」
「―――は?」
聞き取れなくて素で聞き返すと、またしばらく間が開いて。
掠れた声が、雨に紛れて届く。
「・・・俺の死体を・・・処分してくれないか・・・・・・?」
あんたしか思いつかなかった。
伸びてきた手が、きつく浦原の羽織を掴む。それはまるで縋るような強さで。
の身体がぐらりと傾き、浦原は慌てて受け止めた。
ずぶ濡れの身体は冷たいのに熱く、額に手を当ててぎょっとする。
「サン、アナタ熱が―――」
「頼む」
荒い息で、魘されるように。
「たのむ・・・・・・っ」
縋る姿は、まるで母に抱きつく子供。
震える肩はまだ頼りなく、本当に幼い。
異常な力があったばかりに、いらぬ苦労ばかりをしてきた。
浦原は目を細め、震える肩をゆっくりと、柔らかく抱きしめる。
母親がするように、何度もその背中を撫でて。
「・・・・・・大丈夫、アタシにすべて任せなさい」
優しく囁いて、しっかりと抱きしめた。
の頬を流れる涙から目を逸らし、雨の降り続ける空を見上げて。
後三日、と浦原は小さく呟く。
2005年5月22日