DYE

33:後六日(少年と少女)





尸魂界に連れて行かれた日。
会議の招集まで、は牢屋に入れられた。
姿の見えない死神から向けられる視線と、目の前を飛ぶ蝶で暇を紛らわしていたとき。
ふと、周囲の空気が変わったのをは感じた。
『・・・・・・・・・誰?』
身を起こして尋ねると、静かな足音と共に格子の向こうに人影が現れた。
死神特有の黒い着物。そして羽織。
長い髪が印象的な、背の高い男。
伸びてきた手は格子を抜けて、そしての目の前に翳された。
『・・・・・・聞きたいことがある』
顔色の悪さが目立っていたけれど、それ以上に強い目だった。
不安と怒り、戸惑いと悲哀。
感情を押し殺した声音を、はただ黙って聞いた。
『君は・・・・・・朽木ルキアという死神を、知っているか?』





目の前の少女の唇が色を失っていくのをは見つめた。
細い腕が震え、手から鞄が放れる。
地面に落ちたそれが砂埃を興さないのを見て、そういえば雨が降っているのだとは今更ながらに思った。
強い台風が来ている。
「ソール・ソサエティの護廷十三隊の十三隊長、浮竹十四郎」
びくり、と肩が跳ねる。
「そいつの部下が一人、行方不明になったらしい。それで俺に知らないかって」
「・・・・・・・・・っ」
息を呑んだルキアをまっすぐに見つめたまま、は続ける。
「知らないって、言っておいた」
「・・・・・・な」
「俺はあんたの存在を知っていたけど、あんたが朽木ルキアだとは知らなかった。だから知らないって言っておいた」
事情は知らないけど、バレたくないなら気をつければ?
そう続けられて初めて、ルキアは目の前の少年の異質さに気づいた。
尸魂界の内情を知りながらも、彼から死神の霊圧は感じられない。
紛れもない人間。だけどそう言いきるには、得も知れない不気味な違和感を感じた。
何かが彼を内から喰らい始めているような、そんな印象を。
身を硬くし、構える。
「貴様・・・・・・何者だ・・・」
「俺は。人間」
ルキアの問いに答えて、は笑った。



「・・・・・・人間、だよ」



台風が雨と風を運び、彼らの頬を濡らしていく。
例えどんな道を選ぼうとしても。
最後の日まで、後六日。





2005年1月26日