DYE

32:後六日





朝起きたら、窓の外では雨が降っていた。
パラパラ程度ではなく、バケツを返したかのような土砂降り。
案の定、携帯を確かめてみると工事現場から留守電にメッセージが残されていた。
耳を当てて聞けば、やはり今日のバイトは中止。
「・・・・・・シート張りが間に合ってればいいけど」
呟いたの部屋にはテレビがない。だから彼は知らなかったのだが、鳴木市のある地方には現在台風が近づいてきていた。
はスニーカーに足を入れ、ビニール傘を手に立ち上がる。
開けたドアの向こうでは、風に流されて雨が踊っていた。



台風の接近に伴い、空座第一高等学校は午前中のみで生徒を帰宅させることにした。
突然の授業短縮に生徒たちは喜び、風雨の中を足軽く帰っていく。
朽木ルキアもその中の一人だった。
斜めに降って来る雨は彼女の脚を濡らし、強い風は傘の上から圧力をかける。
こんな日に虚が出なければ良いが、とルキアが不安げに慮ったとき。
「―――朽木ルキアさん」
周囲の騒音に紛れてしまいそうで、けれどその声はちゃんとルキアに届いて。
振り向けば、校門のところにビニール傘をさした少年が立っていた。
年の頃は一護と同じくらい。ルキアはそう判断する。
彼は傘を傾け、顔を見せて言った。
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
表情では困惑を表し、内面では警戒を露に、ルキアは少し躊躇ってみせた後で頷く。



歩いて数分のところにある公園。
台風が接近してきている今、そこには誰もいなかった。
少しでも風雨を避けようと、とルキアは東屋に入った。
濡れた制服や鞄をハンカチで拭いている彼女を見て、は何から話そうかと思う。
―――何から話そうか。
逡巡した後で、口を開く。
彼がその言葉を発したとき、目に見えてルキアの表情が強張った。
青褪めて、唇が戦慄いて、一歩後ろに下がったのはきっと無意識なのだろう。
全身で動揺を示している彼女に、はもう一度同じ言葉を繰り返す。



「・・・・・・浮竹十四郎って、知ってる?」



台風がさらに強まった気がした。





2005年1月26日