DYE
27:在るべき場所
二度目に案内された牢屋は、鉄格子のものじゃなかった。
四面を白い壁に囲まれたそこは四深牢という特別な獄舎なのだが、はそれを知る由もない。
ただそこで、壁を背に座り込む。
小さな窓から見える外は、まるで箱庭のようだった。
『おぬしには現世で死して、死神として生まれ変わってもらう』
山本は確かに、を見据えてそう言った。
馬鹿なことを、と反論するには、その眼差しが真剣みを帯びすぎていた。
『おぬしの持つ霊力は、もはや人間の有するべき量を超えている。それ故に虚に狙われ、そして訝しさから死神に追われる』
目が逸らせなかった。強い力に縛られたようだった。
『死して、そして新たに死神として生まれよ。さすれば少なくとも我々はおぬしを襲わぬ』
敵が減る。だけど。
『・・・・・・死神の中にだって、俺のことをよく思わない奴はいるだろ』
『我々はおぬしを襲うた。それ故におぬしは殺した。そのような言い分だったはずじゃが?』
『居辛い場所には来たくない』
『おぬしは現世のおぬしを失う。我らは我らの同胞を失った。対等とは言えぬが、互いじゃ』
戸惑った。本気で。
何を言っているのだろう。
『そりゃあいい。来いよ、。尸魂界に』
更木が太い、楽しそうな声で言う。
振り向けば彼は、ひどくご機嫌な様子だった。
『十一番隊は強さだけがすべてだ。おまえが誰を何人殺してようが、ごちゃごちゃ言う奴はいねぇ』
『僕も賛成や』
次いで言ったのは、笑みを浮かべている死神。
市丸だったっけ、とは彼を見て思った。
『非はどっちにもある。せやったら尸魂界の方が暮らしやすいんとちゃう? 少なくともその力は異端やない』
異端じゃない。異端じゃ、ない?
思わずは振り返った。
眼鏡の奥の瞳と出会って、揺れる。
『・・・・・・好きにすればいい』
悲しみと痛み。
それらの入り混じった声で、藍染は目を伏せて。
『生きたいと望むことは、本人以外の誰にも邪魔できないことなのだから』
大層な音を立てて開けられる扉。
目に入る光は白んでいて、はこれで二晩を尸魂界で過ごしたことになる。
「期限は、次の新月」
まるで死刑宣告のように、山本の言葉が聞こえた。
だがそれは間違いなく『死の宣告』だった。
「十日後の月の無い夜におぬしが死んでいなければ、我々は全勢力をもっておぬしを討つ」
「・・・・・・選択肢は殆どないんだ?」
「死神全員を相手に出来るのであれば、生き続けるが良い」
ふ、と自嘲気味に口元を吊り上げて、は笑った。
「・・・・・・考えとく」
そうしては再び人間界へと戻ってきた。
彼の本来在るべき場所へ。
・・・・・・在るべき場所へ?
2004年12月19日