DYE

24:愚か者





「中央四十六室の裁定を言い渡す」
広い一室に、山本の声が響く。
「虚のみならず、死神までも葬った罪は重い」



「よって、は極刑に処す」



は肩を竦めた。
あぁ、なんて馬鹿馬鹿しい。
浦原が言っていた言葉はどうしようもない戯言だった。
「じゃあ俺、そろそろ帰ってもいい? バイトの連絡入れたのは昨日だけだからさ。今日は無断欠勤なんだ」
今までの流れを聞いていなかったのではないか。
そう思わせるような軽い口調で、は山本へ向けて言い放った。
両側に並んでいる死神の何人かが反応したけれども綺麗に無視する。
「帰れると思うかね?」
「帰るよ。だって俺は人間だし。ここにこのままいたら死刑だろ? だったら逃げるに決まってるじゃん」
「・・・貴様・・・・・・裁定に従わぬ気か」
大柄な男が、笠の下からくぐもった声を寄越す。
それはひどく怒りに満ちていたけれど、相手にするつもりは毛頭なかった。
「従うも従わないもないだろ? 俺がソール・ソサエティの理屈に付き合う義理はないし」
「貴様は我らが同胞を殺した」
「俺は殺されそうになったから殺しただけだ。それの一体どこが悪い?」
「人間が死神を殺すなど、もっての他」
「あんたとは話が合わないな。誰かまともに会話できる奴はいない?」
肩を竦めて周囲を見回せば、小さな笑い声が耳に入った。
最初に紹介されたとき、手を振ってきた死神だ。
「せやな、いきなり極刑や言われても大人しゅう従えるわけあらへん」
浮かべられているのは笑みだけれど、それは易々と信じるべきものじゃない。
は咄嗟にそう判断した。
「何も説明せぇへんで斬りかかっていった僕ら死神にも、否はあるんとちゃう?」
「市丸、貴様」
「せやかて、五番隊の副隊長さんも自分の判断でこの子に挑んだんやろ?」
わざとらしく首を傾げて問えば、眼鏡をかけた死神が眉を顰めて不愉快を露にする。
けれど頷いて口を開いた。
「・・・・・・確かに、雛森君が指令ではなく私事で現世に下りたのは事実だ」
「だからと言って、それは彼を許す理由にはならない」
色黒の死神が、めしいた目でを捉える。
「尸魂界の平穏が彼の死で持するというのならば、それは仕方のないこと」
「あんたとも話が合わないな。俺から言わせてもらえれば、ソール・ソサティの平和なんてどうでもいいんだよ。自分たちの都合だけで人の運命を決めるな」
一瞬だけ場が静まったのを感じ、は大きく溜息を吐いた。
これ見よがしに頭を左右に振って理解不能を示す。
「もうさ、これからも今まで通りでいいだろ? 俺は俺に寄ってくる化け物を殺す。だからあんたたちは寄ってくるな。俺は俺に害のないものは殺さない」
「だが、それでは我々パランサーの責務が果たせぬ」
「じゃあ俺に専属の死神でもつける? 虚は一日に七匹くらい来るからオーバーワークで過労死するかもだけど、それでも良ければ」
「・・・・・・・・・」
再び、言葉が途切れる。
この場にいる者の反応は大きく分けて三つだった。
反論を唱える者、笑みを浮かべて見ている者、そして傍観を貫く者。
はそれらを見回した。
あぁ、なんて無意味な世界。



「馬鹿だね、俺たち」



本当に、なんて愚かなんだろうか。





2004年12月12日