DYE
23:君と、僕と、彼女の世界
人間が尸魂界を訪れているという事実は、死神たちの間を瞬く間に広がった。
隊長らはその人物を議題に諮っているため、話すことはない。
それでも噂の広まる原因は、その人間の霊圧が大きかったから。
瀞霊廷にいる者ならば、誰でも気づくことが出来るほどの、力の強さ。
あまりに強大なそれに畏怖を抱くものは少なくなかった。
震えて刀を落とす者も、少なくなかった。
やちるは笑う。とてもとても楽しそうに。
「ちゃん? うん、会ったよ!」
明るく跳ねている語尾に阿散井恋次と吉良イヅルは眉を顰めた。
松本乱菊はへぇ、と頷いて髪をかき上げる。
「どんな人だったの?」
「何かねー、すっごい強かった! 現世での剣ちゃんは五分の一の力だけど、それよりは絶対に強かったもん」
「・・・・・・でもそいつ、人間なんだろ?」
「うん、人間だよ?」
軽く頷くやちるは、が人間であることなどどうでも良いようだった。
実際に彼女にとっては更木がすべてであったし、その彼が認めているはやちるにとっても喜ぶべき存在なのだ。
「背は乱ちゃんと同じくらい。髪の毛は真っ黒でー」
「顔は?」
当然のように松本が尋ねたのは、やはり彼女が女性だからかもしれない。
けれどまだ幼いやちるは興味がないのか、言葉に迷うように首をかしげる。
「うーんと・・・・・・」
「うちの隊長と、更木隊長と、東仙隊長に分けるなら、どの系統?」
「それなら日番谷隊長!」
「へぇ・・・・・・なら満更でもなさそうじゃない」
「でもちゃんはもっと優しそうだよ? まだ15歳なんだって」
「あら残念。子供なのね」
「――――――ふざけるなっ!」
朗らかに笑い合う二人を止めたのは、切り裂くような声だった。
「そいつは雛森君を殺しかけたんだぞ・・・っ!」
吉良の慟哭のような叫びは、阿散井にも痛いほど判った。
彼とて今、幼い頃を共に過ごした大切な存在が現世で行方不明になっている。
だけど、世界というものは一つじゃない。
やちるは首を傾げ、不思議そうに言う。
「だってそんなのは、ちゃんより弱かった雛ちゃんが悪いんでしょ?」
自分と、相手と、第三者の世界。
数多にあるそれらは、少しずつだけ重なって生きている。
互いに傷つけあいながら、それぞれの世界を。
唯一の世界を。
2004年12月12日