DYE
20:交錯する想い
「面白い奴だったぜ」
更木の言葉に、市丸は腰掛けていた手摺から足を降ろした。
三歩後ろを、更木の背に張り付いているやちるの髪を見ながらついていく。
「あれなら虚どころか死神がやられたのも頷ける。そんじょそこらの奴じゃ勝てるわけがねぇ」
「十一番隊長さんがそないなこと言うなんて意外やなぁ。惚れてしもうたん?」
「はっ! 強さになら惚れたな。久しぶりに全力で戦えそうな相手だ」
ひどく楽しそうな声音に、市丸は更木の上機嫌の理由を悟る。
なるほど、十一番隊長なら当然やな、と納得して。
ふーん、と一つ頷く。
「・・・・・・焦点はその人間の罪を許すかどうかになりそうやなぁ」
呟いて、おそらく彼によって殺されただろう己の部下の顔を思い出そうとする。
けれどそれは像を結ばず、市丸は小さく肩を竦めた。
彼にとっては部下の死など大した意味を持たない。
興味はすぐに、『』へと移されていく。
見世物小屋のパンダか、とは思う。
しかしギャラリーの脅えようや近づいてこないところを見ると、パンダではなくライオンに近いのかもしれない。
珍しいが獰猛。だから近づけない。
そういえば動物園なんて施設にいたときに一度行っただけだな、とは思い返す。
彼の囚われている牢屋の近くには、いくつもの死神の気配が集まっていた。
けれど決して姿を現そうとはしない。そんな輩にが厭き始めたとき。
「・・・・・・・・・誰?」
身を起こして尋ねると、黒衣の相手と視線が重なる。
伸びてきた手は格子を抜けて、そしての目の前に翳された。
血の気のない顔を、日番谷は見下ろす。
いつも纏めている髪は下ろされていて、それに触れようと手を伸ばす。
けれど指が触れる前に、止めた。
「―――松本か」
背後から小さな笑い声が聞こえ、眉間に皺を寄せる。
「はい。・・・・・・お邪魔してしまいましたか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。雛森の容態は?」
「上級救護班によって一命は取り留めました。今は回復に向かっていて、全快まで約一月とのことです」
「・・・・・・そうか」
息を吐くように、日番谷から安堵の雰囲気が漂う。
松本乱菊はそれを見とめてかすかに唇を吊り上げた。
そして一礼し、部屋から静かに出て行く。
気配が消えたのを確認してから、日番谷は再び手を伸ばした。
今度は白い頬に触れ、ゆっくりと手の平を滑らせる。
慈しむように、何度も。
何度も。
交錯する、想い。
2004年11月27日