DYE

19:偽善の青





ガシャン、と目の前で錠が下ろされる。
「それでは、しばしの間お待ち下さいませ」
そう言って早足で去っていく死神の顔色は、一目見ただけで判るほど青褪めていた。
鉄で出来た格子と壁の上部に設けられている小さな窓。
それだけで十分、この部屋の使い道が判る。
「・・・・・・イイ扱いしてくれるじゃん」
呟いて、は格子を蹴った。
「客を牢屋に入れるな、バーカ」
金属音に返事はない。



「連れてきた」
日番谷の報告に、山本は深く二度頷いた。
「名は。人間の男、15歳」
「両親等に霊力を持つ者は?」
「生まれてすぐに捨てられて孤児院で育ったらしく、親類は知らないらしい」
「ふむ、判った」
髭を撫でて再度頷き、山本は沈黙する。
日番谷はそれを正面で見ていた。
一番隊の隊舎であるここには、今は人払いをされていて山元と日番谷の二人しかいない。
本来ならば共に報告に来るべき更木は、を牢に入れた後、どこへ行くともなしに姿を消してしまった。
彼の気性から何を言っても無駄だと判断し、日番谷は一人で一番隊を訪れた。
そして今、報告をしている。
「日番谷や」
山本の老獪な声が届く。
「おまえは、あの人間をどう思った―――・・・・・・?」
問われて答えようと口を開いた瞬間。
日番谷の脳裏に、血塗れて臥した少女の姿が浮かんだ。



パタパタと蝶が飛んでいる。
椅子に座っているのにも厭き、は床に転がりながら手を伸ばした。
指先に留まろうとしたのを、一瞬の手首の返しで羽根を捕まえる。
蝶は少しじたばたと動いていたが、それも時期に大人しくなっていった。
そしては手を放す。
再び自由を得た蝶は、小さな天窓から逃げるように飛び去っていった。



刳り貫いた空が見える。
その色はがいつも見ているものと変わらない。
偽善だな、と思った。





2004年11月27日