DYE
17:おいで、運命
「そこまでだ」
の腕を狙った更木の刃は、長い柄に遮られ。
更木の首を狙ったの手は、強い力に掴まれた。
紙一重の攻撃と行動を制止させられ、は目を瞬く。
手に集めていた力が現れた人物の頬に傷を作り、液体を滲ませる。
黒い着物と、背負っている刀。そして赤い血。
死神だ、とは思った。
「・・・・・・どういうつもりだ」
低く、今までで最も不機嫌に彩られた声で、更木が唸る。
「邪魔すんじゃねぇ。てめぇも殺すぞ――――――日番谷」
名を呼ばれて、と更木の両方を押さえていた第三者が顔を上げる。
その人物が自分よりも幼い風貌をしていることに、はようやく気づいた。
ひつがや。
更木がそう呼んだ小さな死神は、その身長に見合わない雰囲気を持っていた。
それはきっと皺のよった眉間が理由かもしれない。天真爛漫という言葉からは、かけ離れた様子。
けれど声は、声変わりしていない少年のそれ。
「総隊長である山本の指示だ。こいつは尸魂界に連れて行く」
「あぁ? 別に死体でも構わねぇだろうが」
「こいつに今までしてきたことを尋問する必要がある。捕縛が指示だ」
「え、俺、尋問されんの?」
がつい口を挟んでしまうと、高い位置と低い位置から睨むような視線が向けられる。
どちらも強面のものであったが、更木は戦闘の間に慣れてしまったし、日番谷は子供の仏頂面にしか見えない。
頬をかき、だって、と小さく呟いて。
「やだよ、俺。尋問とか拷問とかそんなの勘弁」
「―――はぁ?」
日番谷がさらに眉間に皺を寄せ、更木が呆れたように言い放つ。
「馬鹿か、てめぇは。俺ら死神から狙われてることぐらい承知だろうが」
「そりゃ知ってるけど。でも俺からしてみれば正当防衛だし。死神も虚も」
「それは尸魂界に来てから言え」
「だけどそこに行ったら、俺が死神にフクロにされるのが目に見えてるじゃん。そんなとこに誰が好き好んで行くと思う?」
それはとても正論で。けれど言い方の所為か、まるで子供の言い分のよう。
更木は隻眼を瞬かせ、そして豪快に笑い始めた。
「はははははは! いい度胸じゃねぇか!」
「いや、俺にとってはマジで死活問題なんだって」
「なら俺が保障してやるぜ。てめぇは死なせねぇ」
意外な言葉に、先に反応を返したのは日番谷だった。
「・・・・・・おい、更木」
「こいつは俺の相手だ」
獰猛な笑みを浮かべて、更木が言う。
「尸魂界に戻れば俺も全力が出せる。それでもう一度勝負といこうぜ」
「それで俺が勝ったら、またこっちに戻るまでの保障もしてくれるのか?」
「あぁ、してやるよ」
「それなら行ってもいい」
軽い了解に更木はさらに笑い、手を振ってどこにいたのか小さな少女を招き寄せた。
出会ってからずっと眉間に皺を寄せたままの日番谷を見て、はズボンの後ろポケットから携帯電話を取り出す。
工事現場の始業には、今から行けばまだぎりぎりで間に合う。けれど今日は休ませてもらおう。何時に帰ってこれるか判らないから、夜の居酒屋のバイトも。
「悪い。ちょっと連絡するから待ってて」
断ってから通話ボタンを押した。
すみません。
ちょっと死神の世界まで行ってくるので、今日のバイトは休ませてもらえますか?
馬鹿正直にそう言うわけがなく、体調不良だと言って承諾を得た。
携帯を仕舞って、日番谷と更木、そして更木の肩にぶら下がっている小さな少女を振り返る。
「案内ヨロシク?」
笑顔で挨拶すれば、更木と少女は笑い、日番谷は眉を顰めた。
動き始めた運命が、手招きして呼んでいる。
2004年11月20日