DYE
15:人間と死神
滅法師ではない。
男の、まだ少年と言ってもおかしくない後ろ姿を追いかけながら、更木は確信する。
過去に数度見たことのある彼らは、敵を前にすれば決して背を向けることのない愚かにも近い誇りを持っていた。
けれど今眼前を走る少年は、時おり更木がちゃんとついてきているのを確認しながら、コンクリートの道路を駆け抜けていく。
滅法師ではない。そして、死神でもない。
人間だ、と更木は思った。
普通の、人間だ。
ガードレールをハードルの要領で飛び越える。
周囲に見えるのは緑の畑。ちょうど隣の町との境にあるハーベストロード。
背の高い木々もあるし、手入れをしている農家の人と、時おり通る車にさえ気をつければ大丈夫だろう。
はそう考えて足を止め、振り返った。
黒い着物の男を見上げて、背が高いな、と思う。
「鬼事はもう終わりか?」
隻眼の目は、ひどく楽しそうに輝いている。
鬼事が何かは判らなかったが、はその言葉に答えることにした。
別に、浦原の台詞を思い出してそうしたわけではないけれど。
「場所を変えるのに付き合ってくれてありがとう」
男が眉を顰め、強面の顔が不機嫌に歪む。
「・・・・・・てめぇ、名前は?」
「。たぶん、人間。あんたは?」
「更木剣八。死神だ」
「死神か」
呟いて、はどうしようと思う。
浦原は保護を求めてみろ、と言っていた。従う義理はないが、試してもいいと思っていた。
だけど目の前に立つ男から発されるのは、お世辞にも友好的とは言えない雰囲気。
戦いを望む、それだけの目。
更木が今まで見てきた死神と、ましてや虚とは違うことをは感じていた。
どうしようかと、惑う。
この死神が望んでいるのは、自分を殺すことじゃない。
自分と、戦うこと。
例え結果が同じになったとしても、それはにとって大きな差異を感じさせた。
彼にとっての『化け物』はすべて、自分を殺すことを目的としていたから。
「行くぞ!」
更木が地を蹴って肉薄してくる。
刃毀れしている日本刀を、はぼんやりと見上げた。
俺は人間。あんたは死神。
じゃあ、あんたは、敵?
2004年11月12日