DYE
07:零か壱
隠密機動の報告によれば、所在の掴めない死神は五番隊や三番隊の他にも及んでいた。
行方の分からない死神は少なくないが、彼らの中には同じ傾向が見られた。
「・・・・・・担当者が消えた後も、出没した虚は始末されてる・・・」
尸魂界にはないビルの間を、飛ぶようにして走る。
魄動は今もなお感じられない。
ギリ、と奥歯を噛み締めた。
「絶対に許さない・・・・・・っ!」
小さな、それでいて決意を帯びた呟きが漏れて。
一際高く、雛森は地を蹴った。
それはまるでレースのカーテンのような。
そんな雨を感じながら、はアスファルトの道を歩いていた。
傘は持っていないし、この程度の雨で買うつもりもない。
工事現場の仕事が早く上がれたので、これから家に帰ってシャワーを浴びてからでも居酒屋のバイトには間に合う。
じんわりと、霧雨がシャツを濡らしていく。
こんな天気の中、通りを歩いている人は少ない。
喫茶店やスーパーなどは雨宿りの人で賑わっている。
は誰もいない交差点で一人立ち止まって。
まだ鉛色をしている空を見上げた。
感覚の中、人間ではないモノの存在を確かに感じる。
「・・・・・・何だかなぁ」
呟いて、青に変わった横断歩道を渡り始めた。
辿り着いた反対側の道路に、小さな女の子が立っているのに苦笑して。
まだ本当に小さい。小学校低学年くらいの少女は、黙ってを見上げている。
周りには誰もいない。車が道路を走り出した。
少女の頭に、はゆっくりと手を置いて。
「ごめん。俺には何も出来ないよ」
見上げてくる少女に、諭すように告げる。
「だから、早く成仏しな」
ガードレールの下、置かれている複数の花束。
透けている少女は額から血を流していた。
は再度笑って、頭を撫でる。
少女にはそう言ったけれど、本当は、してやれることは一つだけある。
けれど、そうはしたくないから。
悲しそうな顔をする少女に、微笑みながら頭を撫で続けた。
与えるのは、零か壱。
2004年10月11日