DYE
05:仮初の世界
「部下が一人、消えたんやって?」
映像庁へ向かう間、かけられた声に藍染は振り向いた。
そこには思ったとおり、かつての彼の側近がいて、あの頃から変わらない笑みを浮かべてこちらを見ている。
「・・・・・・どこから聞いた? 市丸」
「さぁ、どこやったかな。死神の行方が分からへんのはそう珍しいことやないさかい。噂やないと思うで?」
答える市丸ギンは、欄干から下りて藍染に並んで歩き始める。
気紛れで動くことが多い彼の行動に藍染は慣れているから、同じように歩を進めて。
「それで、珍しいことでもないのにどうして来たんだ?」
尋ねれば、市丸は細い目をそのままに表情だけで楽しそうに笑って。
「んー・・・ちょっと前からなんやけど、ボクの部下にも連絡が取れへんのがおるから」
意外にもまともな返答と、その内容に、藍染は瞠目した。
「それでは、ここ三日の調査結果をご報告したいと思います」
護廷十三隊とは少し違う分野に属する、どちらかといえば表舞台に出てこない映像庁。
戦闘において役に立つことのない彼らは、一般的な死神から「自分たちとは違う」とみなされている。
それはむしろ見下されていると言った方がいいのかもしれない。
けれど藍染は映像庁の仕事ぶりを信頼していたし、それは他の隊長格の面々も程度の差こそあれ同じだった。
室内には藍染と市丸の他に、二・三の存在がいて。
暗幕で窓から入る光が遮られ、映写機の音が響く。
「三日前、藍染五番隊長から同隊隊員の行方が分からないとの報告を頂き、担当区域に監視蟲をつけました」
映し出されるのは、藍染も数日前に見た鳴木市の様子。
活気の在る街並みはいつもと変わらない。本当に何も変わっていない。
「72時間監視してみたところ、特に異常は見られませんでした。・・・・・・ただ」
「ただ?」
報告していた死神が困惑したように口篭って。
「・・・・・・監視中に虚が現れました」
「虚くらい普通やろ?」
「いえ、それが・・・・・・72時間で20体近く現れたのです」
誰かが驚いたように数字を繰り返した。
地区にもよるが、虚は一日に約一体。多くて三体くらいしか出没しない。
それなのに20体。
「・・・・・・そんなことは在り得ない」
藍染が呟くが、それでも異常の報告は続けられる。
「先程も言ったとおり、鳴木市の担当者は現在行方が知れません」
「せやな。それで虚はどないしたん?」
「・・・・・・虚はすべて、出現確認が取れたすぐ後に抹殺されています。監視蟲を現場に向かわせたのですが、すでに虚どころか、何の痕跡等も残っていませんでした」
「・・・・・・何やの、それ」
「死神でしたら魄動でその存在が分かります。けれどそれすら察知出来ませんでした」
――――――それは、つまり。
「死神ではない第三者が、虚を抹殺しているということか・・・・・・?」
藍染の言葉が険しい響きを帯びる。
滅却師という古い言葉が頭を過ぎった。
消えた死神。多すぎる虚。そして消滅。
鳴木市で何かが起きているのは確かだった。
誰が、何のために、そんなことをしているのか。
・・・・・・分からない。
事実と真実は一体どこにあるのか。
仮初の世界。
2004年10月5日