教室のドアを開けたらバカが転がっていやがった。だから蹴った。だが、バカは大バカらしく起きもしねぇ。
幸せ求めて三千里
今日の朝は練習ではなく、監督との今後に関する話し合いを行った。そのために俺はジャージではなく制服のままで、とりあえず鞄だけ教室に置いてからコートに向かおうと考える。時間的に練習には参加できないだろうから、このままでいい。そして俺は教室に向かった。
ドアを開けたら、バカが床に転がっていやがった。
適当に伸ばしている髪。整ってる割にバカに見える顔。誰に着せられたのかしらないが、ネクタイが今日はきちっと結ばれている。
「・・・ちっ。うるさいのが帰ってきやがった」
今日からまた騒がしくなりやがる。自身の騒々しさにプラスして、コイツがいるとジローまで覚醒時間が多くなりやがるからな。ったく。なんでコイツらが俺様と同じクラスなんかになってんだよ。いい迷惑だ。
「オラ、。起きやがれ」
とりあえずもう一発蹴った。だがまだバカは起きやしねぇ。
「テメェ、いい加減に起きろ」
もう一発蹴るが反応はない。こんな寝起きの悪いバカを毎日起こしてるなんざ、紫苑の奴らも大変だな。まぁどうせジローや宍戸が起こしてるんだろうけどよ。ネクタイを引っ張ってとりあえず窒息させることにする。
「これで起きなかったらオマエは人間じゃねぇぞ」
まぁ今でも十分に人間じゃないけどな。手元のロレックスでカウント始めること一分・・・二分・・・三分・・・。コイツ、マジで人間じゃねぇ。結局、四分四十四秒経過したところで、バカはようやくふるふると肩を振るわせ始めた。
「・・・」
頭が左右に揺れている。そろそろ起きるか?
「・・・」
手足がジタバタしている。いい加減に起きろ。
「・・・」
口がパクパクと開いて、顔色がだんだんと青くなってきて、舌がでろんと外に出て。俺の手に指がかけられ、今にも崩れ落ちそうな声が絞り出された。
「・・・ベッドの下の本・・・・・・」
コイツの最後の遺言。
「・・・しょぶーん・・・・・・しと、いて・・・・・・」
―――ガクッ。首を落としてバカは死んだ。ベッドの下の本か、どうせエロ本じゃないだろうけどな。今度は寝てるんじゃなくて気絶しているバカのネクタイを放して、床に崩れたに俺はポツリと呟く。
「・・・モロゾフのカタログ、せっかくやろうと思ったのになぁ」
「うわぁ★ けーごさまダイスッキ!」
俺様の棒読みにも目をキラキラとさせて跳ね起きたは、吐き気がするほどの甘いもの好きだ。本物をやれば涙して喜び、カタログをやれば一日中それに魅入っている。エロ本より菓子のカタログに魅入るなんざ、中学生男子としてどうかとも思うけどな。まぁ俺様に害はねぇからどうでもいい。
「今回は五日か。おまえのいない間に数学の小テストがあったぞ」
「うーへー・・・俺まだ英語テストの直しの直しの直しも出してなーい・・・」
「直しの直しだろうが。相変わらずバカだな」
「けーごさまのいけずー」
へらへらと笑うは、どこからどう見てもバカにしか見えない。実際にテストをやらせれば直しの直し提出が必要になるくらいだし、総合順位は下から数えた方が全然早い。甘いものばかり食いすぎて崩れたのか、元はいい顔立ちも今じゃすっかりお子様顔だ。
「けーごさま、今日は朝練だろー? 行かなくていーの?」
「語尾を延ばすな。なおさらバカに見える」
「けーごさま、けごーさま、けごさーま、けごさまー。うひゃひゃひゃひゃ! けごさまー!」
意味不明なことを言って勝手に笑い出したバカを蹴って転がす。
「いってー! ひでー、けごさまー!」
「景吾様だ。舌ったらずに人の名を連呼するな」
「けごたまー!」
「くたばれ」
椅子に座り、足を組む際にもう一度蹴り飛ばすと、バカは笑い声を上げながらのた打ち回った。騒がしくなってきた廊下に、登校時間が来たことを知る。
「てめぇのせいで朝練に行けなかったじゃねぇか」
「けごたま、ひどい! 俺のせいにするんだ!」
「うぜぇよ、バーカ」
「うきゃー!」
喚くに溜息をつくと、何故か小さな笑みも漏れた。ったく、騒がしいヤツが帰ってきたもんだぜ。
2004年8月17日