今日から長太郎の部屋になるはずのそこで、ソイツは大の字になって寝転んでいた。 犬っぽい黒い目が一瞬俺と長太郎を捉えたと思ったら、すぐさま瞼に覆われて。
「寝るんじゃねぇバカッ!」
俺の蹴りがソイツの脳天に直撃した。
ワッフルとシュークリーム
俺の蹴りを食らって微妙に目が覚めたのか、ソイツはうっすらと目を開けて、どっか遠くを見ながらボソリと呟く。
「・・・あした・・・」
「あぁ?」
ノロノロと手が示す先を見れば、白いビニール袋が一つ、二つ、三つ、とにかくたくさん山になっていて。
「・・・えぇ、ご・・・」
それだけ言い捨ててソイツは夢の世界へと戻っていった。ダメだな、こりゃ。とりあえず24時間は起きないだろ。そう思いながらゴロリと蹴って横に移動させていると、まだ入り口のところにいる長太郎から声がかかった。
「・・・宍戸さん」
「何だ?」
「その人も、寮生なんですか?」
何だか新種の動物でも見るかのような顔で、長太郎がこっちを覗き込んでいる。
「あぁ、おまえは会ったことなかったか」
「はい、たぶん」
「コイツは・・・」
とりあえず壁際まで転がし終えて顔を上げると、長太郎の向こうに誰かがいるのが見えて。心底面倒くさそうな声が聞こえてきた。
「さん、帰ってきたんですか」
「日吉」
「大声で叫ばないで下さいよ、宍戸さん。迷惑です」
「ワリィ」
でも誰もいないはずの部屋にいきなり人が転がってたら誰だってビビるだろ。まぁ相手がならその可能性も少しは上がるけどな。
「どうせさんのことだから、自室の窓を開け忘れて出かけたんでしょう」
「玄関から帰って来いって言ってるのに聞きやしねぇ」
「夜中に窓を叩かれて起こされなかっただけ良しと思えよ、鳳」
「・・・」
寮の微妙な日常を感じ取ってか、長太郎が眉を顰めている。俺は足元に転がって深く眠っている奴を指差して言った。
「コイツは。俺たちと同じ寮生で110号室の住人。クラスは跡部とジローと同じ3-Aだ」
日吉が適当に説明を付け加える。
「鳳、この人の姿が見えないと思ったら、その日は窓の鍵を開けておいて大人しく夜中に侵入されて翌朝ベッドの隣に男が寝てるなんて状態を受け入れるか、それか窓もカーテンも鍵も全部かけて耳栓して我存ぜぬを貫いて翌朝この人から恨み言を聞くか、どっちかを選べ」
「ちなみに日吉は後者を選んでるな」
「当然でしょう。何だって俺がこんな人に睡眠妨害されなきゃいけないんですか」
自分に非はないと言いきる日吉に俺も思わず頷いた。が自分の部屋の鍵を開け忘れていくのが悪いんだよな。なのに何で毎回俺たちのうちから犠牲者が出てるんだろうか。
「・・・頑張ります」
長太郎が心底困っていますというような顔で頷いた。
バタバタと複数の足音が近づいてくるのを聞きながら、俺はが意識を失う前に指差したビニール袋へと近づく。チェーン店で経営されている洋菓子店の袋に思わず顔を歪めた。
「しっしどー! マジ!? ちゃんが帰ってきてるってマジ!?」
ジローの奴、どうしてが帰ってくる度に毎回ちゃんと目を覚ますんだよ。その向こうでは忍足がのんびりとした足取りで近づいてくる。俺と日吉のやり取りやジローの声を聞いて、他の寮生たちも部屋から出てきた。
「、帰ってきたのか」
「今回はどのくらいいなかったんですか?」
「一昨日にはもう姿を見なかったよなー」
「でも日曜日には食堂でカレーを食べてましたから・・・」
三年から一年まで、寮にいた奴らのほとんどが集まってきて、長太郎の部屋を覗き込んでの所在を確認する。当然のように中に入ってきてベッドに腰掛けていた忍足がニヤリと笑った。
「で? 今回のブツは何やねん」
他の奴らもそれが目的だからか、俺の持っている白いビニール袋へと視線を集中させて。
「ブツ・・・?」
唯一訳の判っていない長太郎だけが首を傾げていた。俺は溜息をついてビニール袋を持ち上げる。
「コージーコーナーのワッフルとシュークリームだってよ」
の相変わらずの甘党な土産に思わず苦笑してしまった。
それから、おそらく店にあった全部だろうと思われる数のワッフルとシュークリームを前にして、俺たちはティータイムを過ごすのだった。はまだ、長太郎の部屋の隅で寝こけている。・・・明日の英語の授業までに起こさないとな。
2004年10月21日