いつかこの生の終わる日が来たら
そのときは君がいてくれるといい
手を握って、存在を感じて
最期に見る君が笑顔ならいい
ごめんね
先に逝く俺を許して

それでも俺は、永遠に君だけのものだから





Loveless





反射的に引いたドアは、差し入れられた爪先に遮られた。
伸びてきた指がドアを掴み、開く。小さい手なのに強い。まずい。力じゃ勝てない。
開かれてしまった扉の向こう、少年から少し離れたところにもう一つ影が見え、は唇を噛んだ。
けれどそんな様子にも、目の前の少年は楽しそうに片眉を上げる。
「面倒だから逃げないでくれない? 僕たちはあんたの捕獲に来たんだからさ」
「・・・・・・ゼロシリーズか」
「へぇ、よく知ってるね。やっぱり玲のお気に入りなだけはあるんだ? あぁ、それとも―――榊校長?」
びくりとの肩が震える。あからさまな動揺に少年は唇を吊り上げた。
顔を覗き込むようにして見上げれば、黒い瞳は視線を逸らす。それが楽しくて乱暴に顎を掴んだ。
「―――っ」
「ふーん。校長はこういう顔が好みなんだ? いいね、あんた。拘束がすごく似合いそう。見てみたいな」
「・・・・・・翼」
闇の中、影が一歩前に出てくることにより、二人目の姿があらわになる。
浅黒い肌を持つ少年。黒い耳と尻尾をつけている彼は、もう一人を『翼』と呼んだ。
この小柄で愛らしい容姿をしながらも、溢れるような力を漲らせている少年の、飴色の髪から覗く耳がぴくりと動く。
「命令は捕獲だろ。早くしないと戦闘機が戻ってくるぜ」
「分かってるよ、柾輝。郭と若菜じゃ稼げる時間もたかが知れてる。あいつらの無駄死にも精々有効に使わせてもらわなきゃね」
翼、と呼ばれた少年の言葉に、がはっと顔を上げた。
その拍子に顎を捉えていた手が放れ、翼は不満そうに視線を寄こす。
深夜二時、闇に浮かぶ白い肌が青褪めていて、それがひどく嗜虐心を煽った。
「そうだよ。あんたの戦闘機―――西城敦は今、俺たちとは別のゼロシリーズと戦っている。だから助けには来れない」
「二人一緒に捕らえるのは難しいから、こんな方法をとらせてもらった」
「あんたを施設につれて帰れば、西城敦は必ず取り返しに来る。違う?」
「・・・・・・違わないよ」
連ねられる言葉に、は小さく答え、目を伏せた。
感覚が、二人の言葉が嘘でないと教える。戦っている。彼が、離れた場所で、一人で。
――――――独りで、戦っている。
「俺が連れ去られれば、西城は必ず追ってくる。例えそれが罠だと分かっていても」
「馬鹿じゃないの? 最強と謳われる『GIFT』の名が泣くね」
「だけどそれが、つがいだから」
迷いない言葉。はまとっていたタオルケットを胸元にかき集める。
大丈夫。存在を感じる。大丈夫。大丈夫。大丈夫。
・・・・・・・・・大丈夫。
「はっ! 余裕ぶってても戦闘機のいないサクリファイスなんてガラクタも同然だよ。大人しくついてくれば拘束はしないでやるけど?」
「悪いけれど、それは出来ない」
明確な声に、翼が目を瞬いた。柾輝と呼ばれた少年も一瞬驚いたような表情を浮かべ、次いで翼の真後ろへと足を進める。
そんな二人の姿に、は厳かに告げた。
「俺たち『GIFT』には、サクリファイスでも使えるスペルが一つだけある」
凛と空気が震えた。
「・・・・・・戦闘システム展開」
闇の中、光が溢れる。

「“相互滅私”―――俺が受けたダメージは、等しくおまえの精神に降り注ぐ」

反射的に受けてたった翼は、そのスペルに息を呑んだ。
柾輝は難しい顔をしたけれど、特別な色を見せない。いいサクリファイスだ、とは思う。
だからこそ笑った。必死に胸を押さえて。
「俺と君、どっちが痛みに耐えうるか・・・・・・勝負だよ」
不規則な鼓動を悟られないように、必死に押さえて。
・・・・・・笑う。



俺はまだ死ねない。君のいないところで死ぬわけにいかない。
早く終わらせて会いに行くから、君も早く終わらせて会いに来て。
手を取り合って遠くまで行こう。誰にも見つからない楽園の地へ。

愛してるよ
俺のただ一人の戦闘機



愛してるよ、西城





2005年7月19日